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若者の社会貢献熱の明暗

竹信三恵子

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 社会貢献に意欲を燃やす若い世代が増えているという。起業を通じて社会を変える「社会的起業」への関心も高く、「社会起業家」として知られる若い世代も目立っている。豊かになった社会で、お金をもうけるなどの物質的な目標には飽き足りず、精神的な満足に目を向ける若者が増えるのは不思議ではない。エネルギーを社会のために役立てたいという姿に、ほっとするものも感じる。

 だが同時に、彼らの「社会貢献熱」への不安も感じる。

 社会学者、阿部真大氏の「搾取される若者たち~バイク便ライダーは見た!」(集英社)、「働きすぎる若者たち~『自分探し』の果てに」(日本放送出版協会)などでは、やりがい、生きがいを求め、ケア労働など「人のお役に立てる」低賃金の仕事で身をすり減らしていく若い世代の姿が描かれる。俗に「やりがいの搾取」といわれる働き方だ。

 以前、そうした働き方の問題点について書いたら、読者の大学生からクレームがついた。「どんなひどい仕事にもやりがいを見出し、それが人のためになることの何が悪いのか」というのである。

 だが、「やりがい」に没頭することで、どこかで燃え尽きざるを得ないような苛酷労働や、生活の維持ができない低賃金労働の仕組みから目をそらし続けるなら、それは、世の中のお役に立っているつもりで持続可能でない働き方を下支えし、再生産していることになりかねない。真の社会貢献には、社会構造を知り、そうした悪いサイクルを変えるための戦略眼を持つことが必要なのに、そうした知識を与えられる場もないまま、「おとなしい若者たち」が、目先の「いいこと」に没入していく様子は、中毒に似たものさえ感じてしまうことがある。

 今年春、「社会的起業の父」といわれる米国の社会運動家、ビル・ドレイトン氏の東京の大学での講演会を聞いた。その際、

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