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[14]幻冬舎、第2位の議決権の「怪」

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 出版界の風雲児見城徹社長(60)の率いる幻冬舎の株式を、イザベル・リミテッドというケイマン籍のファンドが大量に買い占めた。幻冬舎は2月中に臨時株主総会を開催する予定で、当然イザベルが議決権を行使するものとみられてきた。だが、総会に出席できる株主を締め切ってみると、浮かび上がったのは「意外な事実」だった。

 ジャスダック上場の幻冬舎は、オーナー経営者である見城氏によるマネジメント・バイアウト(MBO)によって株式の非公開化を図ることにした。幻冬舎自体の業績は好調なのだが、株式市場では出版市場全体の縮小傾向が嫌気され、その好業績は評価されず、したがって株価は長らくさえなかった。株式市場で新たに資金調達する予定がない一方、年に4回の決算情報や適時情報の開示など上場コストが年に1億円近くかさむ。いずれ電子書籍の隆盛が見込まれるなか、既存の紙ベースの書籍・雑誌ビジネスはその業態を大きく変えることになるかもしれない。抜本的な事業の再構築が欠かせない。

 金融のプロフェッショナルたちの多くが、そう思ったようだった。見城氏のもとには内外の証券会社やM&A仲介会社など十数社が入れ替わり立ち替わり提案書を持参し、遂に見城氏はその一つ、TOKYO企業情報という小規模なブティック・ファームをフィナンシャル・アドバイザーに起用し、MBOに踏み切った。

 見城氏は自身の頭文字を取ったTKホールディングスを設立し、TKホールディングスは10月29日、幻冬舎の株主から1株22万円で株を買い取る株式公開買い付け(TOB)を発表した。議決権の3分の2超の取得を目標としたが、ゆくゆくは上場を廃止して幻冬舎の100%を保有するつもりだった。

 すると、12月7日、突如として議決権ベースで30.2%を取得したと名乗り出たのが、イザベル・リミテッドだった。イザベルはその後も買い進み、12月24日時点で35.7%を取得している。議決権の3分の1超をもぎとったというのは重要だ。合併や定款変更など会社の重要事項を決めるには株主総会で特別決議が可決されることが必要だが、出席株主の3分の1超が反対すると、特別決議は成立しなくなる。いわばイザベルは見城氏の首筋に匕首を突きつけたといってもいいだろう。

 その株式大量取得の手口は、

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