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「たられば」で考える原発事故

森永卓郎

森永卓郎 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授

 東京電力の福島第一原子力発電所の爆発事故は、日本国民だけでなく、世界中を原子力事故の恐怖に陥れた。日本の原子力発電の安全神話が崩壊しただけでなく、日本自体が「被爆」国家としての風評被害をしばらく受け続けることになるだろう。

23日午後5時、固定カメラで撮影された福島第一原子力発電所。黒煙が上がっていた=東京電力のホームページから
 なぜ、こんなことになってしまったのか。すでに起きてしまったことを取り戻すことはできないが、再び事故が起きないように、あえて「たられば」で考えてみたい。

 3月11日、東日本をマグニチュード9の巨大地震が襲った時、福島第一原子力発電所の1号機から3号機は、予めプログラムされていた通り、緊急停止に入った。原子炉には制御棒が送り込まれ、核分裂反応は収束に向かった。予定どおりの作動だった。

 続いて、ポンプによって原子炉に冷却水が送り込まれ、原子炉が冷却されるはずだった。ところが、震災によって原発への送電線が切れ、外部電源が供給されなくなった。これでは冷却ポンプは作動しない。しかし、そうした時のための予備電源として、ディーゼル発電機が準備されていた。発電機は予定どおり起動し、冷却ポンプに電気を送って、正常に稼働しはじめた。これも予定どおりだった。

 ところが、そこに津波が襲う。5メートルまでしか想定していなかった津波の高さは10メートルを超え、発電機は水をかぶり、燃料タンクは流されてしまった。冷却ポンプを動かす蓄電池を使い切り、電源を失った冷却ポンプは停止して、熱をもった燃料棒のジルコニウムと周囲の水が反応して水素が発生し、それが空気中の酸素と結合して、水素爆発を起こしたというのが、事故の経緯だ。

 つまり、地震で原子炉は破壊されていないのだ。もし、電源が生きていれば、事故は何も起こらなかった。外部電源からの電力ケーブルが震災で切れてしまったのは、仕方がないのかもしれない。しかし問題は、非常用電源のディーゼル発電機だ。ディーゼル発電機は、原子炉よりも下の位置にあり、燃料タンクは地面にあった。

 これは素人が考えてもおかしい。大津波が東北地方を襲う可能性があることは、誰もが知っていたはずだ。だから、ディーゼル発電機を建物の屋上などの高い位置に置いておくか、あるいは堅牢な建屋で囲って、津波がきたら入り口をふさぐ構造にしておけば、事故は何も起きなかったのだ。

 「そんなことは、後知恵だ」と思われるかもしれない。しかし、静岡県にある中部電力の浜岡原発をみれば、そうとも言い切れないだろう。

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