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「空洞化」ではなく「新しい国家モデル」を予感

木代泰之

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 中国をはじめ成長するアジアに向かう日本企業の動きが止まらない。何年も前から製造業、飲食業、小売業、金融業などあらゆる業種が海外展開してきたが、大震災に背中を押され、潮流はさらに速く大きくなりそうだ。

 振り返れば、東西冷戦が終わった1990年代からの20年間、世界は「メガ・グロウス(大成長)」の時代に入った。アジア各国は改革開放とグローバル競争の条件整備を進めてきたが、この時期の日本は内向きで改革に出遅れた。今や国内に留まると競争条件が不利なので、企業は国境を越えてグローバル化することに活路を見出している。

 「国家と資本のデカップリング(分離)」の始まりと見ることもできる。希望的に評価すれば、3・11は従来の輸出型モデルに代わる新しい国家のビジネスモデルが生まれる節目になるかもしれない。

 震災後、さまざまな理由で企業は海外に出ている。目立つのは「市場防衛型」だ。宮城県の工場が被災した村田製作所はいち早く「巻き線コイル」の生産をマレーシアに移した。同コイルは携帯に不可欠な微小部品。「復旧が進まなければ、海外メーカーにシェアを取られる」と言う。

 日本化学工業協会も「東南アジアで日本パッシング(外し)の動きがある。政府が自国製品に切り替えて先端産業を育成しようとしている。こちらもアジアに出て行かざるをえない」と語る。

 「地震や原発への不安型」もある。オムロンは東海地震などに備えて、京都の本社機能をシンガポールの現地法人にもダブルで持たせることにした。また、ある電子部品会社は「原発から30数キロに工場があり、西アジアの工場に移したい。数十人雇用しているが、いつか決断しなければ」と悩みを話す。

 こうした日本企業を相手に、アジア諸国が盛んに誘いをかけている。韓国テグ市は日本企業向けに工業団地を5か所も建設中で、使節団を日本に派遣した。電力料金は日本の5割、法人税は7割、土地の賃貸料も格安にする。

 アジア各国が狙うのは先端産業である。どの国も労働集約型の生産拠点から脱皮して「ハイテク化」を目指しているので、チャンス到来なのだ。

 「電力コスト重視型」の典型は東レだろう。今年1月、韓国で炭素繊維の大規模工場を建設すると発表した。ハイテクの炭素繊維は電力を多く使う。電力自由化が進まない日本の電力料金の高さは世界トップ級だが、韓国は低料金。「炭素繊維を日本の半額で生産できる」という。

 韓国はEUや米国、アジア諸国と自由貿易協定(FTA)を結んでいるので輸出も有利になる。日本にいればそれだけ不利ということだ。

 「日本に見切り型」とも言える2例を紹介しよう。福井県の光通信部品のベンチャー企業・KSTワールドは今年、

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