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監査法人はなぜ役に立たないのか

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 監査法人は一体何のために存在しているのか、と疑問を抱かせる事件が続発している。大王製紙の前会長・井川意高氏による巨額借入問題では大手監査法人トーマツが、1000億円を超える損失隠しが明るみに出たオリンパスでは新日本監査法人(2009年以前はあずさ監査法人)が、ともに事実を指摘せず、結果として、投資家や世間に実態とかけ離れた業績をPRする片棒を担いでいた。

 この種の不祥事は、近年だけでもカネボウ粉飾決算事件(2004年)やライブドア事件(2006年)が起きている。今回もまた制度見直しの動きが出ているが、筆者の見るところ、事件の背景には公認会計士の能力不足、企業から選ばれる立場の組織・人間の弱さがあり、いくら制度をいじっても事件はまた繰り返すと言わざるを得ない。

拡大東京地裁に入る堀江貴文被告=2007年3月16日午前9時26分、東京・霞が関で、小宮路勝撮影

 株式を上場することは、今さら言うまでもなく、会社の業績や見通しのデータを正しく投資家に公表することが大前提である。1965年に山陽特殊鋼の粉飾倒産事件が起きた際、粉飾をチェックするのに個人の公認会計士では限界があるとして、66年に法改正が行われ、監査法人制度がスタートした。監査法人は企業との間に緊張関係を保ちつつ、財務内容について監査を行い、漏れや不正があれば、厳正に指摘しなくてはならない。今回はその土台が崩れてしまった。

 大王製紙の件では、トーマツは昨年7月に子会社から井川会長への巨額貸付を把握していたが、詳しい調査をせず、監査役会にも注意を喚起しなかった。なぜそうしなかったかは今後の捜査を待つしかないが、大王製紙と言えば四国では大企業であり、担当する公認会計士がオーナー家に遠慮したか、あるいは率直に指摘して契約を切られる事態を恐れたのかもしれない。意図的に見逃した可能性がある。

 公認会計士は一度でも経営陣の「悪さ」を認めると、共犯関係に陥り、真実が発覚して資格を失う恐怖からますます言うなりになる。そんな事例が過去にはいくらでもある。カネボウ事件では、経営陣は2002年度と翌3年度の決算が800億円の債務超過だったのに、「資産超過」と虚偽記載し、中央青山監査法人のベテラン公認会計士4人も事情を知りながら「適正」の監査報告書を出した。彼らは長年にわたる偽装が発覚するのを恐れ、最後は粉飾の指南までやっていた。当然、全員が逮捕された。

 ライブドア事件では、港陽監査法人が粉飾決算に加担した。この法人は当時のライブドア取締役とお友達関係にあり、決算内容を良好にみせかけることで、近鉄バッファローズやニッポン放送などのM&A資金の調達を容易にする手助けをしていた。

 この事件では東京地検が強制捜査に入る1年前から、ある公認会計士が関東財務局長に提出されたライブドアの有価証券報告書をもとに財務内容を分析し、その騙しのテクニックを具体的な数字をあげて自身のブログ上で指摘し続けていた。それは松江市の山根治氏で、2005年3月に始まったシリーズ「ホリエモンの錬金術」は、ベンチャーの雄のごとくチヤホヤされていたライブドアの隠れた財務の実態をあぶり出していた。

 山根氏は「プロ球団買収の話に興味を持って調べ始めたが、あまりのお粗末さにあきれてしまった」と記し、こんな傍若無人に振る舞う会社に株式上場を許している東証マザーズの怠慢を厳しく批判していた。

 相次ぐ不祥事の背景に「公認会計士の能力不足」があると先に書いたが、山根氏のような眼力と勇気のある人物ばかりではないのが、この世界である。

 ある証券会社の元役員は、「上場企業の数には限りがあり、監査法人を選ぶのは企業なので、監査法人同士の競争が激しい。うるさいことを会社に言うと、お払い箱にされるので、不審があっても目をつぶる。監査役だって同じ。体を張って異議申し立てをする人は少ない。日本社会の一側面です」と、さめた顔で言う。

 大手監査法人も今は「冬の時代」と言われる。リーマンショック後は収入源である株式公開支援やコンサルティング 業務が減り、希望退職などの人減らしを進めている。そんな折だけに、不祥事にも目をつぶりたくなるのだろう。

 米国でも2001年に世界最大のエネルギー販売会社エンロンが経営破たんした際、監査法人のアーサーアンダーセンが巨額債務を見逃し、不正に手を貸していたことが判明した。これを機に米国は、財務報告の信頼性を取り戻すため「SOX法」を成立させ、内部統制や監査体制を強化した。

 日本でも2008年度から「日本版SOX法」が導入されたが、大王製紙やオリンパスの事件が起きたのをみると、制度改正の効果があったとは思えない。結局は、組織や人間の本質的な問題なのだ。

 粉飾に手を貸した監査法人の多くは、その名前を消した。中央青山も、港陽も、世界5大会計事務所の一つだったアーサーアンダーセンもそうだ。こんなことを繰り返していては、公認会計士と言う職業そのものを貶めることになる。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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