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レアアースで露呈した中国の「孤立」と「密輸」

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 中国がレアアースの輸出量を規制して価格を吊り上げようとした思惑は、どうやら裏目にでたようだ。暴騰していた価格は昨年後半から急落。しかも利害を共にする日米欧は結束してWTO(世界貿易機関)に提訴し、予想外の中国包囲網まで作り上げてしまった。

 価格が急落したのは、暴騰によって世界中で生産が盛んになり供給量が増えるという市場原理が働いたことが大きいが、中国の採掘企業が政府の生産抑制の指示に従わず、密輸出が横行したことも影響した。この間の共産党機関紙(人民日報)の報道を検証すると、「国際的な孤立」と「中央に従わない地方官民」という、中国の意外な弱みが浮かび上がってくる。

 レアアースは、中国が世界の生産量の97%(埋蔵量は36%)を占める。2010年に日本に輸出制限をかけてから価格が暴騰し始めた(グラフ=経済産業省資料)。液晶ガラスの研磨剤に使う酸化セリウムの場合、1㎏4~5ドルだったのが、2011年6月には150ドルに跳ね上がった。

 しかし、各国で鉱山開発が進んだ結果、7月には急落し、今は5分の1の30ドルに下がっている。来年には供給不足は解消する見通しだという。明らかに中国は世界の対応力を見誤っていた。

 価格上昇中の2011年1月、人民日報WEB版(人民網)は「日本がいつの間にか資源大国に」という記事を載せた。「日本の外交官や企業人がロシア、モンゴル、インド、ベトナムなどいたるところに出没し、政府主導で大規模投資計画を持ちかけている。彼らは『簡単にはあきらめない』と言う。強い円で資源を買う日本の常套手段だ」と不快そうに記した。党機関紙だけに一般メディアと違って本音が出てくる。

 これらの国々はみな中国と接し、過去には国境紛争(戦争)もあって、それなりの緊張感を伴う国々だ。それが日本と手を組もうとしている。ミャンマーやラオスも開発に好意的だ。日本など、ちょいと締め上げれば頭を下げてくると思っていたら、抜け目なく嫌なところを突いてくる展開に苛立つ様子がうかがえる。

 野田首相のインド訪問(2011年12月)では「日本とインドが隠し立てもせず危険な接近」と題して、さらに神経を尖らせた。「両国は原子力で協力し、レアアース共同開発で合意し、軍事演習まで計画している。我が国を仮想敵国にして牽制する戦略的意図は公然の秘密。背後にはボス米国の『アジア回帰』がある」と嫌悪感丸出しだ。

 中国の軍事力増強は、大国になった自負心やナショナリズムの表現であると同時に、周辺国はすべて敵という「孤立感」と防御としての攻撃性、そして人民解放軍には海外留学の経験者がいないという国際性の欠如が背景にある、と筆者は感じている。

 さて「密輸」である。2011年8月の人民網は、

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