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消費税増税で、日銀が背負わされた過大な期待

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 政府は消費税増税法案を国会に提出した。政局や法案の行方に関心が集まるが、一息いれて、政府与党が増税に向けた環境整備(景気好転)の役割の多くを日本銀行に負わせていることに、もっと注意を払うべきではなかろうか。

 日銀が自ら表明した「物価上昇率(インフレ目標)1%」の達成に努めるのは当然だ。しかし、法案に経済成長の努力目標(名目3%、実質2%)を書き込んだあげく、その実現を日銀の金融緩和策に頼ろうとする政府の姿勢は腑に落ちない。

 名目3%、実質2%は2011~20年度の平均値だが、高齢化する先進国日本の現状ではとても高いハードルだ。たとえば最近10年間の平均値は名目-0.6%、実質0.8%である。景気対策のための予算財源は少なく、世界経済はまだ不安定で景気回復のペースは緩慢だ。

 この目標は民主党内の数値基準を求める反対派との妥協の産物だ。増税の必要条件ではないが、実際に目標に遠ければ逆に増税反対の理由になるので、政府としては少しでも近づけておきたい。そこでおのずと日銀の金融緩和策への期待が過大になる。増税に向けた総動員体制の空気の中で、日銀はインフレの行き過ぎを警戒しつつ綱渡り曲芸のような金融緩和を迫られることになるだろう。

 ずっとデフレ脱却に不熱心と批判されてきた日銀だが、2月14日の決定会合でインフレ目標1%を決め、ようやく重い腰を上げた。その翌朝、日銀の白川総裁は野田首相と2人だけで会談した。安住財務大臣も入れずに直に一体何を話し合ったのか。

 首相は「これからも随時ひんぱんに会う」と述べただけだが、推測すれば、首相は消費税増税に向けた環境整備にさらに協力するよう、総裁に「金融緩和の継続をぶれずにしっかりやってくれ」と念押ししたのだろう。

 消費増税反対の理由のうちで一番多いのは「デフレ下での増税は不況と税収減を招く」なので、首相としては反対派の論拠をつぶしておきたい。すると首相の思惑通り、日銀の方針転換を受けて市場では円安が進んだ。円安になれば輸出が回復して生産が盛んになり、デフレ脱却が進む。増税しやすい環境に一歩近づいたわけだ。

 ところが、白川総裁は何を思ったか

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