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フランスとギリシャの動揺、重要性増すドイツの政策

吉松崇 経済金融アナリスト

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 1990年3月X日、ヘルムート・コール西独首相はエリゼ宮にフランソワ・ミッテラン仏大統領を訪ねた。東西ドイツ統一に正式な承認を取り付ける為である。コール首相の説得に続く長い沈黙のあと、ミッテラン大統領が口を開いた。「よろしいヘルムート、君はドイツの全部を取るがいい。そのかわり私はドイツ・マルクの半分をいただくことにする」

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 本当に、こういう会話があったかどうかは定かではないが、これが、まことしやかに語られる共通通貨ユーロ誕生の背景である。共通通貨ユーロは、ドイツとフランスの政治的な主導のもとに、EUの経済統合を深化させるものとして(シンボリックに)導入された。だから、2009年末から始まったユーロ圏のいわゆる「ソブリン危機」への対応で、ドイツとフランスが一枚岩で行動することが、ユーロという通貨の政治的正統性にとって、きわめて重要であった。いわゆる「メルコジ体制」である。

 5月6日のフランス大統領選挙の決戦投票で、その「メルコジ体制」の緊縮財政路線に異を唱える社会党のオランド氏が当選した。果たして、フランスの大統領交代は、ユーロ圏に経済政策の変更をもたらすのだろうか? フランスとドイツの一枚岩に亀裂が入るのだろうか?

重要なのはフランスの政策ではなくドイツの政策である

 ユーロ圏のGDPに占めるドイツのシェアは27%、フランスのシェアは20%であり、この2国で50%弱、つまり、その経済規模から、ユーロ圏の中でこの2国の政治的発言力が圧倒的に大きいのは当然である。しかし、ユーロ導入以降の経済パフォーマンスを見れば、ドイツは「勝ち組」であるが、フランスは「負け組」である。

 ユーロという固定相場制の下では、その域内で生じた貿易・サービス収支の不均衡を為替レートの変動で調整出来ないので、黒字国には黒字が溜まり続け、赤字国には赤字が溜まり続ける傾向がある。フランスは、貿易・サービス収支の赤字が続いており、その意味で「負け組」である。イタリアやスペインとの違いは程度の差に過ぎない。

 仮定の話であるが、フランスがオランド大統領の下で緊縮財政を転換して、拡張的な政策を採ると何が起きるのだろうか? 恐らく、貿易赤字と政府債務がさらに膨らみ、フランス国債に売り圧力(金利上昇)がかかるだろう。フランスの経済ファンダメンタルズがイタリアやスペインのそれに近づくだけで、これではユーロ圏が現在抱える問題の解決にはならない。フランスは政治的には「中心国」だが、経済的には「周辺国」なのである。

 ユーロ圏全体にとってプラスとなる政策とは、貿易・サービス収支の黒字が溜まっている「勝ち組」の国で需要が喚起されるような政策である。ユーロ圏17ヶ国のうち、「勝ち組」はドイツ、オランダ、ルクセンブルグ、フィンランド、オーストリアの5ヶ国だけである。経済規模から、実質的にはドイツ1国といっても過言でない。ドイツで需要が喚起されれば、ドイツの輸入が増え、貿易・サービス収支の不均衡が多少は改善されるだろう。これは「周辺国」の経済成長にプラスの要因となる。

 ドイツの需要を喚起するために、何も拡張的な財政政策を採る必要はない。ドイツの現在の失業率(5.6%)は歴史的な低水準にあり、賃金上昇圧力が強い。ドイツで高めの賃上げが実現すれば、ドイツ国内の需要を喚起することになる。ドイツの賃金上昇は、ドイツ産業の国際競争力を相対的に弱めるので、フランスやイタリアの産業を助けることになる。ドイツ政府は、財政を出動しなくても、高めの賃上げを誘導することで、需要を喚起できる。 また、ECB(欧州中央銀行)は金融緩和でドイツの需要拡大をサポートできる。(拙稿「世界経済の最大のリスクはユーロ圏にある」(4月21日)で紹介した、アイケングリーン・カリフォルニア大学教授の論考を参照頂きたい。)

ギリシャはユーロ圏から離脱するのか?

 同じく5月6日に行われたギリシャ議会選挙で、これまでEUとの交渉を担って、緊縮財政政策を進めてきた連立与党が大敗し、緊縮財政に反対して、EUとの再交渉を主張する急進左派と極右勢力が議席を伸ばした。 連立与党の獲得議席数は過半数に1議席足りない149議席だが、得票数は僅か33%である。本稿執筆時点の5月14日現在、連立工作も全て失敗したようであり、再選挙の公算が高い。

 金融市場関係者は、ギリシャは高い確率で、この夏にデフォールトを起こして、ユーロ圏から離脱すると考え始めている。ここで「デフォールト」というのは、キリシャ国債のユーロ建てでの利払い・償還を停止する、という意味である。

 世界には、対外債務のデフォールトを起こしても、その後の経済運営が比較的上手くいっているように見える国がある。それはアルゼンチンである。アルゼンチンは過去に2回、1983年と2001年にデフォールトを起こしているが、2000年代のアルゼンチンは、特に農産物輸出が好調で、高い経済成長率を維持している。

 ギリシャの選挙結果を受けて、 ・・・続きを読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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