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東京電力「総合特別事業計画」が積み残した3つの課題

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 政府(経済産業省と内閣府)は5月9日、東京電力が原子力損害賠償支援機構と共同で作成した「総合特別事業計画」を認定した。総合特別事業計画は、東電の抜本的なリストラ策、再生策と呼べるものだが、そこには3つの大きな未解決の難問が立ちはだかっている。大惨事をひきおこした福島第一原子力発電所の廃炉をどう担うかという点と、柏崎刈羽原発の再稼働問題、そして発送電分離である。

爆発のあとがはっきりわかる東京電力福島第一原発の建屋=2012年3月3日、本社ヘリから

 未曽有の原発事故を引き起こした東京電力は、被災者への賠償(少なくとも2兆5462億円)と廃炉(同1兆1510億円)に莫大な資金を要し、すべてを自社単独で負担することができない状態に陥った。ふつうならば「倒産」、すなわち会社更生法の適用の申請など法的整理が避けられない状況にあるはずだが、東電は原子力損害賠償法3条1項のただし書きの適用、つまり「異常に巨大な天災地変」に見舞われた場合の事業者の免責事項の発動を国に求めた。被災者への賠償責任を国が引き受けてほしい、というのである。

 いまからちょうど1年前、「東電救済策」が立案されていく過程は、このふたつの見解――法的整理か免責か――のせめぎあいだった。法的整理論は、ベストセラー『日本中枢の崩壊』の作者である経産官僚の古賀茂明を筆頭に改革志向の強い中堅・若手の官僚や電力自由化論者に広がり、対する免責論は東電の勝俣恒久会長が強く主張し、自民、民主両党の電力族議員に伝播した。結局は両極端の見解は排され、その中間策が選ばれた。原子力損害賠償支援機構を設けて東電を暫時救済する、という案である。それは、いわば時間稼ぎの案、つまり先送りであった。

 かくして1年の猶予を得て、できあがった総合特別事業計画は、税金による支援――東電への1兆円の出資と、原賠機構を通じて少なくとも2兆5462億円の賠償額の交付――をしてやる代わりに、東電に身を切るようなリストラを促すものとなった。連結ベースで7400人を削減し、不動産売却(目標2826億円)や有価証券売却(同3321億円)を進め、2021年までの10年間に3兆3650億円のコスト削減を実現するという内容だ。

 こうしたリストラ策や財務状況の分析は、原賠機構の前身といえる「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が昨年10月にまとめた委員会報告におおむね方向性自体は記載されており、さほど目新しいものではない。むしろ、昨年秋の段階でとうに青写真ができあがっていたものに、政府の認定という「お墨付き」を与えるのが、あまりにも遅すぎた、と言えるほどである。

決算発表後、西沢俊夫社長(左)と同席して会見する次期社長の広瀬直己常務=2012年5月14日午後、東京都千代田区の東京電力本店

 遅々として進まなかったのは、勝俣会長ら東電経営陣の「国体護持」の抵抗もあったとはいえ、野田政権の原子力・エネルギー政策の腰が定まらない面が大きい。あれだけ批判され人望の乏しい菅政権ほどにも、いまの政権には政策推進のエンジンがないのだ。東電の経営改革には、福島第一原発の廃炉問題や柏崎刈羽原発の再開の是非に関する原発政策、さらには電力システム改革が密接不可分に結びついているが、原賠機構だけではそうした幅広い政策イシューに対処することはできない。原賠機構の「親元」である経産省・資源エネルギー庁、そして官邸の意思や判断が必要である。

 だからこそ、

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