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就活で学生が死なない社会に向けて

常見陽平

常見陽平 千葉商科大学国際教養部准教授 いしかわUIターン応援団長  社会格闘家

 警察庁が3月3日に発表した「平成22年中における自殺の概要資料」が話題になっている。就活の失敗を苦にして自殺する10代〜20代の若者が急増しており、昨年は大学生41人を含む150人が自殺していることが明らかになったからだ。警察庁では07年から自殺原因の分析をしているが、この4年で2.5倍に増えていることがわかったのだ。

 2008年秋のリーマン・ショック以降、メディアは就職難報道で溢れていた。現状の事実を言うならば、薄日が差しつつある。就職情報会社や新聞社のデータによると、2012年度、2013年度の新卒採用の求人数には回復傾向がみられる。リクルートが毎年発表する新卒の有効求人倍率は2012年度の1.23倍から2013年度は1.27倍に回復。特に大手を中心に回復傾向がみられる。

 日本経済新聞社が準大手企業を中心に集計し4月23日付朝刊にて発表した「2013年度採用計画」によると、2013年度の新卒採用予定数は2012年度に対し、9.0ポイント増加。2012年度の7.2ポイント増加に続き、高い伸びを示した。特に住宅・流通などにおいて回復している。厚労省、文科省が調査している就職率についても2012年度の大卒は4月時点で93.6%と、対前年比で2.6ポイント増加している。

 もちろん、これらのデータはあくまで推定値であり、実測値ではない。それぞれ、集計時期や集計方法についての問題は長年指摘されていた。とはいえ、企業の採用担当者や、大学関係者に聞いてみても、求人がじわじわと回復している肌感覚はある。問題なのは、この状況が学生には伝わらないこと、そして、「普通の学生」にとっては、就活が早期化・長期化していて、心理的プレッシャーになっていることは間違いない。上位5%〜20%くらいまでの、企業からトップ層と評価される学生は早期に内定が出るのだが、「普通の学生」はかわいそうなのである。

 NPO法人POSSEの調べによると就活生の7人に1人がうつ状態だという。サンプル数も少なく、エリアも限定されたデータではあるが、厳しい現実であることは間違いない。うつ状態は、自殺予備軍の状態とも言える。私もうつで会社を休んだことがあるが、軽々には言えないが、確かにうつになると死にたいような気分にもなるものである。

 この10代20代のうち就活が原因の自殺150人、大学生が41人というデータもより深刻に捉えるべきだ。これは「自殺を試みて死んだ人」の数であって、自殺未遂がカウントされていない。実際には、自殺をはかった人、自殺しようと思っていたが踏みきれなかった人はもっといると認識したい(ちなみに、社会学の古典『自殺論』(エミール・デュルケイム)も、のちにアンソニー・ギデンズなどにより自殺未遂を集計していないことを批判されている)。

 就活自殺の中身にも注目しておきたい。就活自殺をした41名中男性が32名、女性が9名と圧倒的に男性が多かった。平成22年中の自殺者31,690人のうち、男性は22,283人おり、全体の70.3%となっており、もともと自殺者は男性の方が多い。しかし、就活生だけをみると、78.0%となっており、全体の傾向を上回っている。

 あくまで推測でしかないが、

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