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欧州混迷から聞こえる世界不況への足音

中口威 内外情勢アナリスト

 ギリシャ再選挙が6月17日に行われ、新民主主義党(ND)が第一党となり、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)ならびに民主左派の閣外協力も得て、ゆるやかな連立政権が誕生した。新政権は、計画達成時期の2年延長など多少の条件変更を要請する意向のようだが、基本的には財政緊縮路線を継承する政権であり、当面ユーロ圏からの離脱は回避され、EUの支援も継続される可能性が高い。

 ただ、かりに緊縮政権誕生で、支援が継続されたとしても、ギリシャの財政再建への道のりはけっして平坦ではない。ギリシャの財政収支はあまりにも不均衡で、基盤となる産業も見当たらず、大幅な税収増も見込めない。それゆえいずれまた財政が逼迫し、返済繰り延べや債権放棄要請に至る可能性も否定はできない。

 一方で、民間金融機関はギリシャ国債の保有額を徐々に減らしているようで、再度の債権放棄にも耐えうる体制を整えつつある。ギリシャ債権は、ECBEFSF(欧州金融安定化基金)・IMFなどに徐々に肩代わりされており、危機がギリシャのみに留まるならこれはおそらく吸収可能である。いわゆる秩序ある破綻へのシナリオが着実に進んでいると言える。

 しかしながら、気がかりなのは、ギリシャの現状を受け、市場がリスク回避的となり、スペイン、イタリアなどの国債売却に動いているようにみえることである。6月7日、フィッチはスペイン国債の格付けを一挙に3段階格下げし「A」から「BBB」とした。見通しについても、さらに格下げの可能性がある「ネガティブ」で、「スペインは対外債務が大きく、ギリシャ危機が波及し易い」としている。また6月13日、ムーディーズもスペイン国債を、「A3」から「Baa3」へと3段階、あと1段階で投機的と言われる水準まで引き下げた。6月14日には、スペイン10年債の金利が危険水域と言われる7%を上回り、18日には7.3%を超えている。

予断を許さないスペインの状況

 ギリシャの再選挙に先立つ6月9日、スペイン・デギンドス経済相が、EUへの支援要請の意向を表明した。

 EUは1000億ユーロ規模の支援を実施する方向で、EFSFもしくはESMからスペイン政府系の銀行再編基金(FROB)経由の融資を検討しているようである。国家財政への支援ではなく、銀行救済に限定した融資ゆえ、スペイン政府に厳しい財政再建義務を課することはしないと言われるが、銀行が破綻した場合、結局はスペイン政府の負担となる。IMFの査定では400億ユーロの資金投入が必要とされており、1000億ユーロあれば十分間に合うとの評価だが、果たして本当にそうなのか。

 ユーロ圏財務相・中央銀行総裁会議は3月30日、ESMプラスEFSFの欧州危機回避の安全網を8000億ユーロに拡大した(実質未使用枠:5000億ユーロ)。また4月20日のG20財務相・中央銀行総裁会議では、IMF融資枠を4300億ドル追加する事で合意、さらに6月18・19日のG20首脳会議で、4560億ドルに増枠している(未使用枠総計:8360億ドル)。

 スペインへの支援が今回の1000億ユーロで留まるなら、EU・IMFの新たな資金枠で十分吸収可能である。しかしスペイン国債は一挙に3段階格下げされ、そして10年債が7%台まで売り込まれている。

 昨年来の市場のスペイン国債売りを受けて、

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