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シャープ危機、「唐突感」の裏で起きていたこと

木代泰之

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 シャープが経営危機に陥っている。台湾の鴻海(ホンファイ)精密工業の資金支援を前提に、従業員5000人の削減や事業売却、資産圧縮を進めている。幸いなことに三菱東京UFJ銀行など金融機関は見捨てず、追加融資に応じるという。それにしても、あまりの急速な財務悪化に「唐突感」はぬぐえない。液晶の雄シャープの内部で起きていたのは、社の命運をかけた堺工場(大阪)の失敗と、危機の表面化の先送りだった。市場には不信感が残り、再建はいばらの道だ。

 堺工場は新日鉄跡地に4300億円の巨費を投入して2009年に完成した。世界最大級の最新鋭工場で、関連企業も含めると投資総額は1兆円と言われる。パナソニックの尼崎工場とともに、「大阪パネルベイ(湾)」の象徴として持てはやされた。

 大きなマザーガラスを使うことが堺工場の特徴で、60型の大型液晶パネルなら年間600万枚生産する能力がある。売れ筋の30~50型だと製造コストは韓国サムスンより劣るが、大型だと逆に優位に立つ。つまり世界のTV市場がこれから大型化に向かうことを前提に作られたのである。

 同工場の投資判断は2007年に行われた。そのころシャープは絶好調で全社売上高は3兆4千億円と、2000年度の1.5倍に達していた。亀山工場(2004年稼働)で作る液晶TV「アクオス」が大ヒットしていた。

 しかし、08年にはリーマンショックが起きて液晶TVの売上は急減。中国、台湾メーカーによる量産やコモディティ(汎用品)化によって価格は大幅に下落していた。円高もあり、全社売上高は2兆8千億円に落ちていた。堺工場が稼働を始めたのはちょうどこんな時期だった。

 消費者が求めていたのは高級な大型TVではなく、低価格で品質もそこそこの商品。TV3原色(赤緑青)に黄色を加えた4原色の新製品も開発したが、大型TVは売れなかった。稼働率は50%を切り、巨大投資は裏目に出てしまった。

 11年4月には一時生産停止に追い込まれた。当時のシャープの発表は「3月11日に発生した東日本大震災による販売減と在庫増加のため、4月初旬からマザーガラスの投入を休止しました。在庫の適正化を図り、5月連休明けの稼働再開を目指します。7月以降は高稼働率が維持できる見込みです」と、生産停止の原因をもっぱら大震災に関連づけ、なぜか楽観的な見通しを述べている。

 実際にシャープは稼働率を上げて増産を図り、米国や中国の富裕層向けに多少売れたという。しかし実情は、稼働率が低いままでは堺工場の減損処理(損失計上)を迫られ、過剰設備の実態が明らかになるのを避けるために増産したのだと言われる。その結果、パネル在庫は2100億円まで膨らんでしまった。

 堺工場で需要予測を誤るという致命的なミスを犯したことを、経営陣は認めたくなかったのだろう。しかし、

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