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危ない「40歳定年制」

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 「40歳定年制」がにわかに脚光を浴びている。酒場の雑談のタネとしてはおもしろい、などと軽く考えていたら、いつのまにか、朝日新聞やNHKなどの大手マスコミが、まじめに取り上げ始めた。これは、かなり危ない。「40歳定年制」が独り歩きすれば、今の日本社会の雇用状況をさらに悪化させかねないからだ。

 そもそも定年とは、社員の仕事の業績や契約内容にかかわりなく、会社が一律に雇用契約を終わらせることができる年限のことだ。働く側にとって雇用は生存の命綱だから、一律に雇用契約を打ち切られる定年後にどうやって食べて行くかは、死活問題だ。だから、60歳定年制の下では、間をあけずに60歳からの年金の支給が始まり、年金の開始が65歳まで引き上げられると、空白の5年間をつないでいけるよう、高齢者雇用安定法が改正されて、65歳までの雇用確保が義務付けられている。

 ところが、「40歳定年制」の提案には、そうした緊張感は見られない。

 この提案が登場したのは今年7月の政府の国民戦略会議フロンティア分科会の報告書だが、ここでは、「場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか」と軽やかに書かれ、「もちろん、それは何歳でもその適性に応じて雇用が確保され、健康状態に応じて70歳を超えても活躍の場が与えられるというのが前提である」と、条件がつけられている。

 また、10月10日付の「朝日新聞」で、提唱者の柳川範之東京大大学院教授は「現状の仕組みや制度を前提に、40歳定年で会社を辞めることを想像するから不安になるんです」「40歳で退職しても、教育を受けられて、比較的スムーズに次の職を見つけられる社会にしないといけない」と語っている。

 どうやら、真の狙いは、働き手がいつでも会社をやめられる流動性のある仕組みをつくることのようだ。とすれば、わざわざ定年を引き下げる必要はない。

 にもかかわらず、「定年引き下げ」がこれほど受けてしまうのは、

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