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「金融超緩和策」の主張の錯誤

賀来景英 エコノミスト

 安倍総裁の下で策定された自民党の政権公約で「大胆な金融緩和策」が、政策の目玉として主張された。安倍総裁のその後の伝えられる発言を見ると、当初の無謀というべき姿勢はさすがにトーンダウンされてきているようだが、それでも、デフレ・円高脱却を最優先の政策課題として、そのために金融の一層の緩和の断行を求めるという基本路線に変わりはないようだ。

 デフレからの脱却は最優先課題とされるべきか。日本銀行は、既に、消費者物価上昇率1%を金融政策運営の実質上の「目標」(日銀の表現では「物価安定の目途」)としており、また、海外の主要中央銀行もすべて、表現やコミットの度合いに差こそあれ、金融政策運営にあたって物価上昇率の目標(あるいはそれに近いもの)を定めている。

 これは、中央銀行に課せられた課題が通貨価値の維持である以上、当然のことといえる。しかし、そのことと、特定の物価上昇率(自民党の場合、2%)のあらゆる手段を使っての実現と定義された「デフレからの脱却」を、経済政策上の最優先課題とするのとは別のことである。

 このような主張が怪しまれない背後には、「デフレ」と「不況」の同一視、さらにいえば、後者を前者の結果とみる考え方があるように思われる。

 しかし、これは誤っている。顧みれば、2000年代初頭、日本経済がやはり景気後退下に呻吟していた時期、今と同様に、まず、何をおいてもデフレからの脱却をと声高に主張された。その後に起きたことは、2002年初めから、中国からの需要増大に牽引される形で景気回復が始まり、それに遅れて、2006年になってようやく消費者物価も前年比で上昇に転ずる。不況からの回復がデフレからの脱却に先行したのである。

 言葉の本来の意味でのデフレ、すなわち、物価全般の持続的下落、の要因はもとより複合的であり、

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