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農相人事に見る安倍総理の改革本気度

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 農林族ではない林芳正氏をTPP参加問題のキーパーソンとなる農相に任命したことが、農業界に波紋を投げかけている。

 80年代半ばまでの自民党政権下の歴代総理は、大臣にはその省の政策に精通しない人を任命することが多かった。総理が省庁の事情に精通した力のある人を大臣に据えることを嫌がり、直接各省庁に自らの意思を反映させようとしたからだと言われている。筆者は1977年に農林省に入ったが、このころ大臣に誰がなるかは皆目見当がつかなかった。農林水産行政とは縁もゆかりもない、意外な人が大臣になることが多かった。

 しかし、経済が複雑化し、大臣に専門的な知識が要求されるようになってから、総理は専門家である族議員の中から、自分に近いと思われる人物を任命するようになった。特に、総理が小ぶりになったのか、「三角大福中」といわれた時代が終わった1987年の竹下内閣以降は、その傾向がだんだん強くなってきている。

 最近では、大体農相の予測ができるようになった。今回の組閣でも、農林水産副大臣を経験し、有力な農林族議員だった宮腰光寛氏が農相に擬せられた。自民党総裁選で安倍氏の推薦人となった別の農林族議員が農相に意欲を燃やしているという情報もあった。

 フタを開けると、これまで農林水産行政とは縁が薄いとみられる林芳正氏が農相となった。宮腰氏では、TPPに消極的すぎるとアメリカから見られるので、自民党のTPP検討小委員長を務めた林氏を任命したとか、安倍氏はライバルとなる有力政治家に困難なポストを押し付けたのだとかの解説記事もある。

 与党の自民党農林族議員は農相任命に表立って反対はしていない。JA農協の機関紙である日本農業新聞は、自民党の選挙公約である「例外なき関税撤廃を原則とする限り、交渉参加に反対」という文言をまとめたのは、TPP検討小委員会であったことを踏まえて、農相は「政府部内でTPP交渉参加に慎重な立場で論陣を貼ることが求められる。」としている。

 他方で、同紙は、石破茂幹事長がテレビ番組で、(影響を受ける産業に対する)国内対策を検討すると発言したことを「公約から外れ、先走りすぎだ。」と批判している。関税撤廃で価格低下の影響を受ける農家に直接支払いという対策を講じても、農協には金はいかない。

 なんとしてもTPP参加を阻止したい農協が「国内対策検討」をまかりならんとするのは、当然だ。さらに、同紙は、「民主党など野党の農林議員は、農林系でない議員の農相への登用や貿易自由化推進論者の甘利氏らの入閣を受け、『TPP推進の布陣ではないか』と警戒を強めている。」と述べている。新政権になっても、農協はTPP参加に強い警戒を持っている。

 しかし、農協が盾とする自民党選挙公約の文言は、

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