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「アベノミクス」と「アベノリスク」

榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト

 金融政策のさらなる緩和、財政の機動的運用、民間投資を喚起する成長戦略を3つの柱とするアベノミスクが始動しはじめた。2011年は震災、津波によるマイナス成長、2012年は上半期は回復したものの、下半期に再びマイナス成長に陥っている。このような状況で財政・金融の両面から景気を刺激し、民間投資を喚起することは必要だろう。

 こうした点から当初、マーケットがアベノミクスを好感し円安と株高が進んだのだった。しかし為替レートは1ドル90円前後で反転し、再び85円を目指す局面になっているし、株価も若干反落している。よく市場では“Buy on Rumors, Sell on Facts”(噂で買って実行段階で売る)というがアベノミクスもそうした展開になっているようだ。

 景気回復策を積極的に取ったのはいいのだが「デフレ脱却」を掲げたインフレ・ターゲット2%を設定したのは明らかに間違いだった。

 まずデフレ。日本のコアCPI(消費者物価指数)の前年同月比は1999年にマイナスに転じ、その後デフレが続いている。この間、2002年から07年は実質GDPの平均成長率は2%弱と、日本経済の潜在成長率0.5%(OECD推計)からすると高い数字だ。

 しかし、この間もコアCPIは下がり続けている。しかも短期金利はほぼ0%に達し、2001年から06年にかけては量的緩和政策が行われている。しかし、こうした積極的金融緩和にも関わらず物価は下落し続けたのだった。

 伝統的経済理論では物価は金融的現象だとされてきた。つまり、金融政策いかんで物価は下落もするし、上昇もするということだ。こうした枠組みからはデフレは日本銀行の金融緩和が十分でなかったからだということになる。安倍晋三総理の経済ブレーンとされる浜田宏一内閣官房参与も日銀法の改正を含む、日銀へのさらなる緩和圧力が必要だと発言している。

 物価の変動が主として金融的現象であるならば、こうした議論は適切だし、日銀へのさらなる圧力も正当化できる。しかし

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