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TPP日米共同宣言をワシントンで読み解く(上)

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日米首脳会談を終え、握手を交わす安倍晋三首相(左)とオバマ大統領=2013年2月22日、ワシントン、樫山晃生撮影

 私はこの原稿を米国の首都ワシントンのホテルで書いている。安倍総理と同時にワシントンにいるのは偶然である。毎年この時期に開かれる米国政府主催のシンポジウムに参加することにしているからである。

 パソコンを開いて、TPPに関する日米共同宣言が出されたことを知った時は、少なからず驚いた。訪米前から安倍総理が関税撤廃例外の感触を得ると発言していたことは、水面下で日米間の接触が相当進んでいることを窺わせているものなので、何らかの感触を引き出すことは可能だと思っていた。しかし、共同記者会見でオバマ大統領が示唆することがせいぜいで、これほどはっきりしたものが出るとは意外だった。

 私は19日、ワシントンの有力なシンクタンクのメンバーとTPP交渉について、立て続けに意見交換していた。日本と違って、アメリカのシンクタンクは単にGDPや金利、為替の予測を行う機関ではない。著名なシンクタンク、ブルッキングス研究所の標語は、クオリティ(高い質の研究)、(政党や利益集団からの)インデペンデンス、(これを踏まえて米国の民主主義、国益の増進、安全で繁栄する国際社会を実現するため、政府に政策提言をする影響力、つまり)インパクトである。単なる学術研究機関なら大学で十分である。

 “インパクト”という標語が示す通り、シンクタンクは現実的な政策提言を行う機関なのである。“回転ドア”といわれるように、シンクタンクから政府に入り、また、シンクタンクに戻る人が少なくない。手前みそだが、回転ドアは無理としても、私が所属するキヤノングローバル戦略研究所が目指しているのも、そのようなシンクタンクなのだろう。

 日米関係やTPP交渉に深くかかわっている、これらのシンクタンクのメンバーたちは、安倍総理の訪米を前にして忙しかったようである。しかも、彼らは一様に、安倍総理が参議院選挙前にTPP交渉参加を表明することには懐疑的だった。それがワシントンの共通認識だというのだ。

 TPP交渉を米国政府部内で取りまとめているのは、通商代表部(USTR)であるが、直接大統領に助言し、大きな政策決定に関与しているのは、ホワイトハウスにいる大統領補佐官である。ホワイトハウスに近いシンクタンクのメンバーは、アメリカ内部の事情も説明してくれた。80年代から90年代にかけての日米経済摩擦のしこりが、まだ米国の自動車業界には残っているというのである。

 今のところ、日本のTPP参加への反対は一つの大手自動車メーカーにとどまっているが、

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