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就活の改善に本当に必要なこと~時期の見直し論繰り返す不毛~

常見陽平 千葉商科大学国際教養部准教授 いしかわUIターン応援団長  社会格闘家

政府の有識者会議「若者・女性活躍推進フォーラム」を批判する

 3月15日付の日本経済新聞は、「政府は企業による大学生の採用活動の解禁時期を遅らせ、大学4年生の4月にするよう経済界に検討を促す方針を固めた」と報じた。女性や若者の就労促進策を議論する有識者会議「若者・女性活躍推進フォーラム」による協議が行なわれているという。記事によると、会社説明会など採用活動の開始時期を大学4年生の4月に、内々定を出す選考活動を8月ごろにすべきだとする提言をまとめるとのことだ。学生にとっては3年生の間は学業に専念でき、3年生の冬休みをインターンシップにも充てられる他、留学していた学生も就職に間に合うといったメリットが紹介されている。

 私はこの報道に触れ、呆れ返るとともに、怒りすら感じてしまった。これは本当に若者が生き生きと学び、働くことにつながる施策だと言えるのだろうか。申し訳ないが、このままでは学生はますます就職することも、勉強することもできなくなってしまうと強く危惧する。守れないルールはやめた方がいい。むしろ、「出会い方」、「育て方」、「雇い方」の3つを見なおした方が、学生にとっても企業社会にとっても有益である。

 本稿では、私が今回の報道で示されている方向性を批判する理由を述べるとともに、出会い方、育て方、雇い方の変革について提案する。官邸のページに議事録はまだアップされていない。各委員が事前に提出した資料と、日経の報道を元に論じる。

就活時期論争は、不毛である

 思考停止するわけでも試合放棄するわけでもないが、断言する。就活の時期論争は、不毛である。日本の新卒採用の歴史というのは、時期論争の歴史である。しかも、それはルールを決めるたびに破られる歴史なのだ。

 野村正實氏が2007年に発表した『日本的雇用慣行』(ミネルヴァ書房)は1920年代においても時期をめぐる論争があり、そこで学生たちが疑心暗鬼になっている様子を伝えている。当時の大学新聞なども含む多数の資料をもとに検証している。

 また、大島真夫氏が2012年に発表した『大学就職部にできること』勁草書房は、『就職ジャーナル』(リクルート)のうち就職協定があった時代に発行されていたものをもとに、取り決めより前に企業との接触があった事実を紹介している。青田買いが横行し、就職協定が有名無実化していた時代があることについても記述している。

 これらの学術研究を持ち出すまでもなく、就職の時期をめぐるルールは実に巧妙なかたちで破られ続けてきたことは、企業、大学、就職情報会社などで新卒採用に関わっている者の間では周知の事実である。

 経団連は2013年度卒から倫理憲章を改定し、採用広報活動スタートを大学3年生の12月1日、選考を大学4年生の4月1日とした。では、ルールはちゃんと守られているのだろうか。「守られていているかのように見える」というのが真相で、私が見聞きする限りではルール違反や、すれすれの行為は行なわれている。

 大学のキャリアセンターには学生から、倫理憲章賛同企業から「もう内々定が出た」という報告が入る。また、日本生命のように内定者が主催するイベントを12月1日より前に実施し、Facebookページで告知している企業もある。同社は倫理憲章に賛同しているのだが、内定者が開くイベントは採用活動とは別だという理屈なのだろう。倫理憲章は選考を兼ねたインターンをしないように呼びかけているが、実際はインターンシップが青田買いの場と化していることは公然の秘密である。

 もちろん、倫理憲章はサインするかどうかは企業の方針次第である。2月に「ニトリに内定した」という学生数人と会ったのだが、調べてみると同社は、数年前にはサインしていたものの今年の倫理憲章にはサインしていない。サインしたところで、あくまで紳士協定であり、罰則規定どころか調査規定すらない。

 この手の規制は、外資系企業やベンチャー企業をどうするのかという問題も残る。そもそも、採用活動は企業活動である。どこまで規制をかけるのかは議論を呼ぶだろう。規制を行ったところで、前述したようなグレーな逃げ道を企業は考えるものである。

 もう1つ論点がある。それは、就活の時期は単純に後ろ倒しすれば、学生のためになるというわけでもないということだ。

 例えば、

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