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女性雇用拡大のためのコストはいくらか

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 アベノミクスの3本の矢のうちの成長戦略が混迷している中で、安倍晋三総理が4月19日に「成長戦略スピーチ」を行い、成長戦略の中身を一部明らかにしたことは歓迎できる(安倍総理の「成長戦略スピーチ」)。中でも女性労働を活用するための待機児童ゼロへの環境整備は大きな効果がある(効果が疑わしいものもあるが、本稿ではそれは議論しない)。 

 保育所の待機児童ゼロを5年間で実現するという政策は(もちろん、すぐヤレという人も多いだろうが)、女性の労働参加率を高め、労働力を増やす政策である。では、これでどれだけGDPが増大するだろうか。 

国際的に見た日本男女雇用格差

 は、日本の男性を1とした男女の就業率格差と賃金格差を示したものである。図に見るように、日本の女性の就業率は男性の就業率を1として0.712であり、女性賃金は男性賃金を1として0.614である。これに対して、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4か国平均はそれぞれ0.868と0.811である(本稿に示す数字は、断らない限り、この図の出所からとったものである)。

  日本の女性就業率が4か国平均なみになれば、就業者数は女性の就業者は21.9%(=0.868/0.712-1)、男女計の就業者は9.1%((男性の就業者3,729万人+女性就業者2,656万人×1.219 ÷(3,729万人+2,656万人)=1.091)増える。

  しかし、だからといってGDPが9.1%増える訳ではない。なぜなら、現状では女性は様々な制約から賃金の低い仕事についているからである。どの賃金の仕事でも賃金と利潤の分配の比が変わらないとすれば、低い賃金の仕事が増えてもGDPはあまり増えない(すべての賃金と利潤を合計するとGDPになる)。どれだけ増えるかというと、女性就業者が増えた後の賃金総額、男性の就業者3,729万人×男性賃金1+女性就業者2,656万人×1.219×女性賃金0.614、を増える前の賃金総額、3,729万人+2,656万人×賃金0.614で割って6.6%である。

  ただし、それでもこれは大きいことを強調しておきたい。大騒ぎをしてなんとか参加にこぎつけたTPPですら、GDPを3.2兆円、比率で0.6%拡大するだけである(内閣官房「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」2013年3月15日)。10兆円という試算もあるが、政府の試算としなかったのは、追求されたときにうまく説明できない部分があるからだろう。さらに、アメリカの自動車関税の早期引き下げが難しいようであることから、0.6%の利益を得ることも難しいかもしれない。6.6%は極めて大きな数字である。 

男女賃金格差縮小の効果はさらに大きい

 大きな数字ではあるが、様々な制約が取り払われて女性が高い賃金の職に就ければ、さらにGDPは増大する。女性が子育てのために就業を長期間中断しなければならないことが

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