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ユニクロの世界同一賃金ショック

大鹿靖明

 ユニクロを展開しているファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、朝日新聞のインタビューに答える形で「世界同一賃金」を導入すると明言したこと(4月23日付一面「ユニクロ 世界で賃金統一」)が、大きな論争を引き起こしている。一般的なサラリーマンからすると、ついに来るものが来た感はあるだろう。賃金水準の低い新興国のハングリーな若者に勝てる自信はない、いきおい日本人サラリーマンの賃金は新興国水準に下方修正されていくに違いない――そう思った人は少なくないはずだ。将来我が身に降りかかりかねいから大きな反響を呼んだのだと思う。

 私はこの記事に「限界にっぽん」取材班の一員としてかかわっている。柳井氏に世界同一賃金を導入したいという考えがあるようだということを薄々承知はしていたが、まさか4月5日に本人に実際にインタビューをするまでは、ここまではっきり明言するとは思いもしなかった。

 世界同一賃金を導入するお考えですか、そう尋ねると彼はきっぱりこう言った。

拡大ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長

 「バングラデシュでもどこの出身でも、日本に来たら日本人以上の報酬をとれる。幹部にもなれる。グローバルになるというのは、原則的には国境に関係なくできる、ということ。当然生活水準が違うので、それは調整します。調整しますが、基本的な考え方は、世界で同じ仕事だったら同じ賃金。それですぐに転籍できるようにする。中国の人が韓国に行って仕事をするとか、台湾の人がフランスに行って仕事をするとか、その日のうちに給料の調整をして転籍して仕事ができるようにする」

 私たち取材班の質問に、柳井氏は逃げずに真正面から持論を開陳した。

 「うちの年頭の標語は、チェンジ・オア・ダイ。変わらないと死ぬ。グローバル化というのは、グロウ・オア・ダイなんです」

  「グローバル化で、将来は、年収100万円か1億円かにわかれていく。これは世界の傾向です。『あなたは付加価値を与えられる仕事ではないといけないのですよ』と。そういう人を育成して、海外に行って店の経営をやってもらわないといけないのです」

 柳井氏は基本的な考え方はきわめて明瞭に語るものの、しかし、彼が志向する世界同一賃金の詳細な制度設計になると、曖昧な部分が少なくなかった。基本的なコンセプトはあるが、仕組みは固まっていないな、聞いていてそんな印象を受けた。「全部資料をお見せしますから。人事部長に(聞いて)」と、柳井氏もむしろ部下への補足取材を促した。

 担当幹部である山口徹人事部長に詳細をうかがうと、彼は、柳井氏の意向と現実との板挟みにあっているようだった。幹部クラスにはすでに昨年9月に世界同一賃金を導入したものの、中間管理職や一般社員まで落とし込む制度設計となると、各国の固有の労働市場や賃金水準のばらつきがあり、それを調整して仕上げるのは簡単にはいきそうにないようなのだ。「格差がすごいんです。それで慎重にならざるをえないんです」

 そんな言葉が何度か山口氏の口をついて出た。柳井氏のいうような全世界同一賃金を末端まで取り入れることは「検討はします。議論はしています」と言いつつ、「まだ検討段階です」と難儀している様子だった。

 朝日新聞の「ユニクロの世界同一賃金」報道に敏感に反応したのが、 ・・・続きを読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(2012年、講談社、13年に文庫化)を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(06年、朝日新聞社、10年に文庫化)、『ヒルズ黙示録・最終章』(06年、朝日新書)、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(10年、朝日新聞出版)がある。近著は、編著者としてかかわった『ジャーナリズムの現場から』(14年、講談社現代新書)。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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