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[4]グローバリゼーションと若者格差

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 日本の若者はグローバリゼーションを歓迎していないようだ。若者の意見がより大きく反映されるネットの世界で見ると、たとえば、グローバリゼーションの象徴とされるTPPには敵対的意見が多い。

 しかし、本来、グローバリゼーションは若者のチャンスである。幕末開国の時代では、新しい知識と考え方を身に付けることが有利な若者の地位が向上し、そうではない人々の地位は低下した。なぜ、現在の若者はグローバリゼーションが嫌いなのだろうか。

 おそらく、グローバリゼーションがなければ自分たちは先進国の若者として、古い世代が享受できたような、安定した職や持続的な所得上昇を勝ち取れるとなんとなく思っているのかもしれない。しかし、古い世代がそうできたのは、むしろグローバリゼーションの波に乗ったからではないか。

 早い話が、いくら自動車を作っても国内でいくらでも売れる訳ではない。良い車を作ることができるという技術の価値を維持しようとするなら、海外に売っていくしかない。自動車産業とそれに関わる人々が持続的な所得の上昇を得られたのは、自らグローバリゼーションを主導したからである。ところが、日本では、グローバリゼーションは何か不吉なものと扱われることが多い。

 例えば、日本の所得格差が拡大している理由として、グローバリゼーションが挙げられることが多い。グローバル化した世界では、先進国の労働者は、世界のもっとも貧しい国の労働者とも競争しなければならない。その結果、日本のような先進国の労働者には賃金を低下させる圧力が働く。

 ただし、この圧力は先進国の単純労働者に強く働き、技能労働者にはそれほど強くは働かない。貧しい国には単純労働者は多いが、技能労働者は少ないからだ。このことが日本国内の単純労働の賃金を引き下げ、所得分布を不平等にするという。しばしば聞かされる議論だが、これは本当なのだろうか。そもそも、海外から安いものが入ってくれば、所得の低い人の実質所得を高める働きがある。

 グローバル化の進展が喧伝されたのは、ソ連崩壊が契機になっている。今まで、鉄のカーテンに閉じ込められていた人々が、ソ連崩壊で、国際競争に参加する。その人々の数は4億人である。これらの新しい労働者の国際市場への参加は、当然に国際競争を激化させる。もちろん、それ以前から、アセアンや中国やインドの影響も大きいはずだったが、喧伝されたのはソ連が崩壊した1991年以降のことだ。そこで1990年と現在との賃金格差を比べてみよう。

どの国で格差が拡大したのか

 図3は、OECDのデータから、1990年と2006年(データの制約から、国によってその前後の年を取った場合がある)の男性労働者の賃金格差を示したものである。必要なデータが得られたのは、元のデータ23か国のうち、図の15か国だった。

 男性労働者の賃金を取り上げたのは、女性労働者で単純労働者が少なくなっていることや、一部の女性が高賃金の労働に進出しているなどの構造変化がありうるからである。このような構造変化ではなく、純粋に格差の問題を考えるためには、男性労働者の賃金格差のみを見た方が良いと考えられる。

 賃金格差の指標は、賃金を十分位に分けた場合の上位2番目の賃金の平均が上位第10十分位(すなわち最下位の分位)の平均の何倍かで表している。この指標は、所得の低い労働者と比較的恵まれた労働者との格差を問題にしていることになる。

 横軸が1990年の格差指標、縦軸が2006年の格差指標である。日本のデータは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から取ったものである。この調査は、10人以上の事業所を調べたものであり、非正規の職員を含んでいる。したがって、

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