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[1]「パブリックにするな」

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 東京電力は、福島第一原子力発電所の連続爆発事故が落ち着きをみせる2011年4月以降、自社に対するマスコミ報道が気になり始めた。東電と政府が作る統合対策本部の全体会議の議事録には毎日のようにマスコミ対策を検討し、その報道内容を論評するくだりが記録されている。同議事録を通じて東電から見えたマスコミをシリーズで紹介する。

福島第一原発の事故を巡り、初めて共同の記者会見が開かれた。前列手前から広瀬研吉内閣府参与、文部科学省の坪井裕審議官、原子力安全・保安院の広報担当をつとめる西山英彦審議官、細野豪志首相補佐官、東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理=2011年4月25日午後6時28分、東京都千代田区の東京電力本店福島第一原発の事故を巡り、初めて共同の記者会見が開かれた。前列手前から広瀬研吉内閣府参与、文部科学省の坪井裕審議官、原子力安全・保安院の広報担当をつとめる西山英彦審議官、細野豪志首相補佐官、東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理=2011年4月25日午後6時28分、東京都千代田区の東京電力本店

 事故直後から東電のマスコミ対応は、原子力設備管理部の職員や広報部の部付部長ら中間管理職に任せられがちで、勝俣恒久会長、清水正孝社長、武藤栄副社長ら責任ある幹部による記者会見は限定的だった。会長、社長、そして6人いる副社長の合計8人が「代表権」をもつものの、彼らは本社内に引きこもり、矢面に立ちたがらない。責任を追及されることを極度に嫌うのだ。

 そして情報は、あらかじめ東電社内で発表むけに「濾過」されたものだけが記者たちに提供される。情報の統制に意を配る。だから統制外のことを許さない。独自取材は大嫌いなのだ。

 それがはっきり示されたのが2011年4月23日(土)午前9時からの全体会議だった。

 この日やり玉に挙がったのは、元共同通信記者で独立総合研究所代表の青山繁晴氏が前日の22日、福島第一原発に入り、吉田昌郎所長と一時間半会談するとともに内部の模様をビデオで撮影したことだった。青山氏には原子力委員会の専門委員の肩書もあった。

 武黒一郎フェロー:青山さんのブログについて西澤常務からお話があります。

 西澤俊夫常務:青山さんの件について、電話がつながらなかったのでメールにて「パブリックにしないよう」に丁重にお願いした。サイトに入った事実、線量、所長と懇談したことがブログに書かれていたが、具体的なことは書かれていなかった。引き続きお願いはしていく。今後こういうことがないように、外部の人が入るときは業務部長に知らせることを徹底する。

 武黒:統合本部の了解がない場合はお断りするのがよい。

 吉田所長:そうします。

 撮られた画像を「パブリックにするな」という。

 所内の様子はあくまでも東電が撮影し、提供するのが原則なのである。

 4月18日(月)午前9時からの全体会議では、マスコミからロボットの写真を提供してくれるよう要望があることが議題になっている。

 本店広報:ロボットが原子炉建屋に入ったということで写真を公表する。

 武黒:この内容で公表することに何かありますか?

 第一原発:1号機はエレベーター前まで(ロボットが)いっていますが、3号機は瓦礫を乗り越えながらなので半分も行っていないと思われる。

 武黒:原子炉建屋の中をすべてみたわけないので、プレスの内容に注意が必要です。

 本店復旧:マスコミへの提供の仕方について、どこのポイントを撮っているか示すよう工夫をしたい。

 このあと細野豪志首相補佐官(統合対策本部事務局長)は「参議院の予算委員会の質疑において、昨日発表したロードマップ(4月17日に公表した事故収束に向けた第1次工程表のこと)が議論になる。予算委員会で前向きな発表を行いたい。一歩一歩進んでいることを国民、世界に示すようにがんばっていきたい」などと発言して会議をしめくくっている。

 一歩一歩進んでいることを示すという政権の意図に沿うよう報道機関に情報を提供しようというのだ。情報誘導に政治的意図が感じられる発言だ。

 東電はこの後、遠隔操作で動くロボットによって撮影した画像をマスコミに提供している。1、2、3号機それぞれにロボットが入って撮った画像だが、そこかからは「3号機は半分もいっていない」ということはうかがえなかった。

 それはまさに、細野氏が言う「一歩一歩進んでいること」を示す発表内容だった。