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脱原発は「原発清算事業団」で――細川・小泉元首相が謝罪した国策の誤りと歴史的意義

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

小泉純一郎元首相(左)の応援演説中に涙を流す細川護熙氏=2014年1月23日午後、東京都渋谷区、福留庸友撮影小泉純一郎元首相(左)の応援演説中に涙を流す細川護熙氏=2014年1月23日午後、東京都渋谷区、福留庸友撮影

 細川護熙、小泉純一郎の元首相2人が東京都知事選挙の街頭演説で、原発に関する国策が誤っていたと、都民、国民に、肉声で直接に繰り返し語りかけた。一国の首相だった時の誤りを率直に国民に謝罪し、責任を認め、その誤りを改めることを主張した政治的な意義は限りなく大きい(インターネット時代の今日では、両元総理大臣の都内各所での演説の全体、聞き入る大群衆の波が、無数のYouTubeの記録映像・音声で、誰でも視聴できる)。

 小泉氏が属する歴代の自民党内閣は、1950年代後半の岸信介(安倍現総理の祖父)政権以降から、「原子力の平和利用」の美名の下に、日本の原子力発電を、「国策」として長期にわたって推進して来た。

 細川元総理は、1993年に長年続いていた自由民主党政権を倒して成立した内閣の首班、小泉元総理は、自民党内閣の首班を平成期では最長の5年半近くも務めた。

 しかし、日本国首相を支えるべき政府内外の原子力専門家が言っていた「原子力発電所は安全で、原子力発電は最も安い電力である」との助言は両方ともウソで、騙されたというのが、両元首相の演説の中身である。

 両元首相の発言に異議ある読者は、海外では広汎に流布している福島第1原子力発電所の第3号機から真っ黒なキノコ雲が上空高く吹き上がった大爆発と、その3発の大轟音(2011年3月14日・月曜日午前11時過ぎ)を、以下のYouTubeのリンクで、この場で御覧になることを強く勧める。スタジオの女性キャスターが、大閃光、大轟音のあまりにも凄まじい光景に声もなくなっているさまが、強烈な印象を与える。
FUKUSHIMA SECOND EXPLOSION REACTOR 3 JAPAN
http://www.youtube.com/watch?v=FN7jKFqECU0

 岸内閣時に原子力発電を本格的に導入しようとした際に、同内閣の高碕達之助通産相は、米国の原発事情を調べる視察団を派遣した。その1人である川本稔氏は、軽水炉の開発者で、米国の原発開発の中核にあったワインバーグ博士に会い、博士の警告を持ち帰ったとされる。それは、日本は米国と同様の過ちは避け、パンドラの箱を開けるような原発には手を染めるなとの助言で、岸首相、高碕通産相に直接に伝えたという。

 しかし、それから半世紀以上を経て、ワインバーグ博士が危惧した通りに、日本は未曽有の原発事故、多くの人口の放射能被曝、広汎な国土・海洋の放射能汚染に見舞われたのである。

 放射能を滅却する技術はないので、原子炉の「廃炉」も、溶融した核燃料を処理することも現段階では実際には不可能で(新技術の開発・出現を待つというのが実状)、2万トン近くの膨大な使用済核燃料の大部分は、54基の原発の建屋内の使用済燃料プールに放置されたままである。

 このような状況下でも、日本政府は、原発事故問題は、東京電力という一私企業の問題であるとの前提をおろさない。

 原発問題が袋小路に入っている根本は、この非現実的な前提にある。

 東京電力の株式の過半は、原子力損害賠償支援機構が握る。しかし、同機構の株式の半分は政府が握っているだけで、残りの半分は、電力会社などの原子力事業者12社が持っている。東電以外の電力会社も間接的に、福島第1原発事故の賠償を負担している構図である。

 このような構図では、東京電力は、原発部門を抱え込んでいる状態では、事故が収束していない福島第1原発の直接的な事故対策費の捻出さえ困難であろう。事故被災者への十分な補償などは、不可能に近いであろう。東京電力以外の株主は、自社の負担を減らそうと行動するからだ。

 東京電力に足りない資金は、民間銀行が、原発事故直後から融資を求められ、実施して来た。しかし、民間銀行の立場では、不良貸出先に、限度が無い融資を求められるようなものである。これ以上の融資の増大は、明確な政府保証が無い限り、勘弁して欲しいと言うのが、本音であろう。

 以上のように、資金繰りに窮している状況下では、既存の原発設備で売上を上げ、新規資金を捻出しようと、何が何でも原発再稼働を図ろうとしていると考えられる。

  しかし、東京電力以外の原発を持つ他の電力会社も、原発を再稼働し、福島と同様な事故が起きれば、自分の会社の将来は無いとの思いが本音であろう。

 電力会社も、民間金融機関も、国策として始めさせられた原発事業は、国策として国に引き取って欲しいと言うのが偽らざるところなのである。

 かつて、大赤字の累積で行き詰った国有鉄道の再編・民営化のために、「国鉄清算事業団」が編成された。同様に、国の直轄機関として、「原発清算事業団」を作り、

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