メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

雇用の受け皿としての農業の存在意義

青山浩子 農業ジャーナリスト

 高齢化、後継者不足、低い国際競争力・・・農業の課題を挙げれば切りがないが、まったく異なる視点から農業をとらえようとする動きがある。雇用の受け皿としての、農業のふところの広さだ。

ユニバーサル農業が雇用を生む

 「高齢者、外国人、障害者、定年帰農者・・・。農業はこうした多様な人材を受け入れ、戦力にできる」――。3月14日に静岡県浜松市で行われた「ユニバーサル農業シンポジウム」で、農業の持つプラスの面が浮き彫りとなった。

 ユニバーサル農業という言葉は、農業界でもさほど知られていない。浜松市のホームページによると「一般的には“園芸福祉”や“園芸療法”として知られているような園芸作業を行うことによる生きがいづくりや高齢者・障がい者の社会参加などの効用を、農作業の改善や農業の多様な担い手の育成などに活かしていこうという取り組み」とある。

 同市内にて水耕栽培でミツバやネギ、チンゲンサイなどを生産する京丸園(株)が1996年から障害者雇用を始めたことを契機に、農業と障害者との接点を深めようと農業者、福祉関係者、企業・学識経験者、行政機関で2004年に立ち上げた組織が「浜松市ユニバーサル農業研究会」だ。設立以来、定期的に研究会を開いたり、年1度シンポジウムを企画・開催している。

 この日のシンポジウムでは多様な人材を活用することが規模拡大はもちろん、農家自身の経営能力向上にも役立っていることを農家の発表からうかがうことができた。

ハンディもつ人たちが変革を起こす

 京丸園は現在、社員、パートを含め約60名いるスタッフの3割以上を障害者が占めている。鈴木厚志社長は「始めはボランティア的な思いから雇用を始めた」が、その後「ボランティアなどと言っている場合じゃない。障害を持った子たちの力を借りて従来の農業に変革を起こすことができるようになった」と話す。

 京丸園が一人目の障害者を雇ったことを知り、ある特別支援学校の教諭が「もう一人受け入れてくれないか」と農場を訪ねてきた。鈴木社長はネギの種を播いたスポンジを水耕栽培用のベッドに手際よく埋め込みながら「こういう作業は熟練技術が必要です。障害者には難しいと思う」といった。

 すると5日後、教諭はプラスティック下敷きのような板を持参し、下敷きをスポンジにあてて手際よくベッドに埋め込んでいった。その時、鈴木社長は気づいた。「農家は自分のやり方がベストだと思い込んでいる。人を雇う場合も自分と同じ作業ができる人しか雇わない。福祉の先生たちは作業ありきではなく、障害を持った子ができる作業は何なのかから考え、工夫する。だからあの板を考案できたのだろう」

 その後、手作業から板を使った定植方法に変えてみると、明らかに作業能率が上がり、生産性が上がった。同社は本格的に障害者の雇用を始めた。

 96年当時の約6,500万円だった売上が13年には約2億8千万円と4倍以上に増えた。「売上の伸びは、障害者が農業にとってハンディでないことを証明している」と鈴木社長は胸を張る。

 同じく浜松市でサボテンを始めとする多肉植物の生産・販売をおこなう(株)カクト・ロコは社員・パート含め60名体制だ。このうち、一線を退いた元サラリーマン8名が働いており、

・・・ログインして読む
(残り:約2106文字/本文:約3478文字)