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「輸出が伸びないと景気が良くならない」の誤り

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 アベノミクスの第1の矢の金融緩和で景気が良くなったと言っても輸出がまったく伸びないではないかという議論がある。日本人は、輸出が伸びないと景気が悪いと思い込んでいるようだが、別に経常収支、貿易収支が赤字でも景気は良くなることが多い。アメリカはずっと経常収支が赤字だが、それでも90年から現在まで、ほぼすべての期間で、日本よりずっと景気が良かった。経常収支が黒字であることより、景気が良いことの方がずっと大事ではないだろうか。

 輸出が大事だというのはずっと昔から言われてきたことだから、日本人のDNAにしみついてしまったのかもしれない。昔々、アメリカがくしゃみをすると日本は風邪をひく、アメリカが風邪をひくと日本は肺炎になるという言葉があった。

 要するに、日本経済は輸出、中でもアメリカ向けの輸出に依存しているので、アメリカの景気が少し悪くなると、日本の景気はずっと悪くなるという意味である。この言葉は本当なのだろうか。

アメリカの景気と日本の景気は連動していない

 図1は、1956年から現在までの日本とアメリカの実質GDP成長率を比べたものである。アメリカがくしゃみをすると日本は風邪をひくという言葉が真実であるなら、アメリカの成長率が少し下がると日本の成長率が大きく下がるという関係があるはずだが、図からは、そんな関係は見えない。

 確かに、70年代前半、2000年代にはアメリカのGDPと日本のGDPが連動しているが、それ以外の期間では様々である。しかも、70年代前半は石油ショック、2000年代はITバブルの崩壊、リーマンショックによる世界金融危機という世界共通の要因によって日米ともに景気が悪くなった訳で、アメリカの景気の影響で日本の景気が悪くなったとは言えないだろう。

 図1のようなグラフでは関係がそれほど明らかにならないので、縦軸に日本のGDPの成長率、横軸にアメリカのGDPの成長率を取って散布図にしたのが図2である。長期間のデータなので、

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