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中国の銀行は日本の「失われた10年」を再現するのか(上)

根本直子 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授/アジア開発銀行研究所、 エコノミスト

 中国の銀行業界は、不良債権の増加に直面しているが、日本の90年代の銀行危機のような深刻な状況には陥らないだろう。銀行の収益性は高く、相対的に高い経済成長率も下支えとなる。ただし、こうしたプラス要因は今後変わっていく可能性もある。現政権が、市場の混乱を起こさずに、経済の構造改革、金融制度改革を進めることができれば、日本の「失われた10年」を回避できると思われるが、時間的な猶予は乏しくなっている。

中国の銀行の不良債権は増加

 中国は経済成長率が過去20年の平均である9.5%から2014 年には7.5%程度に減速するなか、地方政府の債務の急増、銀行やシャドーバンキングの与信拡大、不動産価格の高騰といった問題に取り組んでいる。日本では1990年代初めに企業や個人が過剰な債務を抱えるなかでバブルの崩壊が生じ、銀行業界の安定性が損なわれるとともに、「失われた10年」と呼ばれる景気低迷の引き金となった。中国の政府と銀行は、日本の轍を踏むのだろうか。

 中国の銀行の貸し出しの質は、今後2~3年で徐々に悪化するとみている。その要因として、中国の公共投資、建設ブームがスローダウンするなか、銀行が過剰設備を抱えた赤字企業に対し多額のエクスポージャーを有することが挙げられる。銀行セクターの不良債権比率は、2013年末で約1.7%と低位にあるが、貸出全体の約15%程度を占める地方政府融資プラットフォーム(地方政府が資金調達のために設立した会社)は不良債権には分類されていない。

 同セクターの債務が増加し、金利負担が増えていること、収入源である不動産価格が調整局面に入りつつあることは懸念材料である。地方政府の収入を安定化させるための税制の改正や、債券発行等調達手段の多様化が検討されているが、実現にはなお時間を要するだろう。

 また過剰生産能力を抱える鉄鋼や造船など一部製造業についても、事業再編などの過程で銀行の与信コストの増加につながる可能性がある。銀行の貸出総額の11%程度を占める個人向け住宅ローンについては、

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