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変則的なTPP交渉、最終妥結はUSTRのTPA取得後の来年に

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 シンガポールで19~20日に開催されたTPP閣僚会合で、甘利担当大臣は「今までよりはるかに霧は晴れてきた。交渉は最終局面にある」と発言した。

TPAなき変則交渉と中間選挙

TPP閣僚会合閉幕後の共同記者会見に臨む甘利明TPP相(左から3人目)や米通商代表部(USTR)のフロマン代表(同4人目)ら=2014年5月20日午後、シンガポールのホテル、村山祐介撮影 TPP閣僚会合閉幕後の共同記者会見に臨む甘利明TPP相(左から3人目)や米通商代表部(USTR)のフロマン代表(同4人目)ら=2014年5月20日午後、シンガポールのホテル、村山祐介撮影

 では、アメリカで中間選挙が行われる前の夏頃に、合意できるのだろうか(夏頃と言われるのは、貿易自由化交渉は特定の業界に影響を与えるので、選挙の直前は避けたいからである)。私は最終的な合意までは難しいと思う。これまでの通商交渉に比べ、今行われているTPP交渉は、良く言えば変則的、悪く言えば異常だからである。

 まず、アメリカ政府が交渉権限を持っていないうえ、今年11月のアメリカ連邦議会の中間選挙が終わるまで、交渉権限を議会から譲り受けることはほぼ不可能であることが、米国内外の通商関係者のだれにも明らかなことである。

 アメリカでは、憲法上、通商交渉の権限が議会に与えられている。議会は政府が交渉した結果でも、自由に修正できる。このため、TPA法(トレード・プロモーション・オーソリティ法の頭文字で、日本では、大統領貿易促進権限法と訳されている)を議会で成立してもらって、議会の通商権限を行政府に渡し、アメリカ議会は政府が行った交渉の結果すべてに対して「イエス」か「ノー」だけ言い、一切修正しないことにしてきた。

合意がなかったことになる可能性

 これまでの通商交渉では、交渉妥結の時点ではTPA法を獲得するから安心しろと、アメリカの交渉者は他の国に述べてきた。しかし、今夏までにアメリカ政府はTPA法を獲得できない。

  TPAがない状態で合意しても、各国は合意した内容をアメリカ議会に修正されてしまう。つまり、日米の担当者が真剣になって交渉して、牛肉の関税を10%で合意しても、アメリカ議会が8%にすべきだと主張すれば、合意はなかったことになってしまう。

 TPA法自体も政府への白紙委任ではない。このように交渉すべきだというアメリカ政府への注文が付けられる。来年TPA法が成立したとしても、その中でアメリカ政府に要求されるものが、今年合意するTPP協定に含まれていなければ、交渉は再交渉となる。

 しかも、中間選挙で議会の構成は大きく変わることが予想される。今年夏頃TPP合意が得られたとしてアメリカ通商代表部が了承を求める相手も、TPA法を作る主体も、現在は存在しない中間選挙後のアメリカ議会である。そのアメリカ議会の主張や意見は、

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