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[36]労働力人口の漸減下でも、大多数の日本国民の実質生活水準の維持・向上は可能

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

 日本の総人口の減少の見通しに直面して、様々な反応が、各所から出ている。

 日本政府は、先週の6月24日に閣議決定した『経済財政運営と改革の基本方針2014について』の中で、50年経っても人口1億程度を維持したいとの方針を掲げた。

 また、今年5月の日本の完全失業率は3・5%と、米国の6・3%、ユーロ圏の11・7%(今年4月)に比べ、際立って低いとされている。日本の一部の経済報道では、『人手不足』さえ喧伝されている。更には、労働力不足から、このままでは、将来の日本経済は閉塞状況に置かれると示唆する論調さえ見かける。

 要するに、政府も民間も、総人口、労働力人口を高水準に維持しなければ、日本の将来は、御先真っ暗と言っているかのようである。

 本当にそうなのか?

 筆者は、本シリーズの第1回目に、『日本の1人当たりGDPの水準は、最近の四半世紀余りの期間では、米国・ユーロ圏に比べて、余り遜色のない水準に追い付いている・・・西欧・北欧型の高福祉社会も、米国型の低福祉社会も、日本国民・社会は自由に選択する事が可能な状況に長らくおり、現在もいる』と書いた。
《シリーズ》データで考える日本の針路(1) 自由な選択は可能だ(2013/10/22)

 また、本シリーズを始める前の論考で、『企業経営と、国民経済の経営は異なる。企業経営者の感覚で、国民経済の経営に当たれば、意図しない悲劇を生むだけで、企業経営の国内環境も悪化する事に、十分に留意する事が肝要である』とも書いた。
アベノミクスの陰に隠されているもの(2013/07/24)

 要するに、個々の日本国民の平均的な生活水準の維持・向上にとって良いことと、個々の企業の利潤が増大するか否かは、必ずしも同じではない。往々にして、両者は相容れない場合が多いのが現実であろう。したがって、日本社会全体の国民経済経営の視点と、企業経営の視点を混同すると、議論は混乱するばかりであろう。

 日本政府による公式推計によると、日本の15歳以上の人口は、2010年・2011年の両年に共に1億1111万人でピークを打っている。労働力人口は、早くも、1998年には6793万人でピークを打ち、2013年までに6577万人と、216万人、3・2%の減少、就業者数は6514万人から6311万人と、203万人、3・1%の減少を見たとされている。

 労働力人口の傾向的減少は、『人口高齢化』と、若年人口の減少による。年齢別・男女別の人口が推計されている2013年10月1日時点の状況をグラフ化して見ると、第2次世界大戦後の『第1次ベビーブーム世代』は60歳半ば、その子供世代である『第2次ベビーブーム世代』でも人数が最多の1973年生まれは、40歳台に入っている。それより若年の各年齢人口が急減していることが、1990年代後半以降に、日本の労働力人口が漸減した背景と言える。

 しかし、『失われた十年、二十年』などとされる長期の景気低迷期にも、労働力人口の漸減にもかかわらず、日本経済の実質GDPの水準は、1998年から2013年の期間にも、12・9%の漸増を示して来た。上記のように、この期間に、就業者数も3・1%の減少を見ている。就業者1人当たりの実質GDPの水準は、16・5%の上昇を見た。(四捨五入で、数字には若干のズレ)年平均では、1・0%の成長である。

 この水準の成長率は非常に緩慢に見えるが、元々の1998年当時の水準が高いので、

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