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国の年金積立金は株式運用を増やしても大丈夫なのか? 政策研究大学院大学の伊藤隆敏教授に聞く

松浦新 朝日新聞経済部記者

 安倍政権はこのほど策定した成長戦略に、厚生年金と国民年金の積立金、計約130兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用の見直しを盛り込んだ。安倍政権はGPIFを中心とした公的資金のあり方について有識者会議を設置。昨年11月に報告書がまとまった。その座長を務めた政策研究大学院大学の伊藤隆敏教授に聞いた。

 

 ――昨年11月、座長を務めた公的資金の運用に関する有識者会議が報告書を出しました。約200兆円の公的資金が保有する国債の多くを売ると大きな変化になります。

 伊藤 我々が見ていたのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と3共済組合(国家公務員、地方公務員、私立学校教職員)の年金積立金です。GPIFが約130兆円で、3共済が約30兆なので、計160兆円ぐらいあります。国債の比率はGPIFが60%ぐらいで、国共済が80%ぐらいです。有識者会議では数字を出していませんが、GPIFは40%以下にするというのが私の意見です。GPIFだけで15兆円から20兆円を売ってはどうかと考えています。

 ――その根拠は何ですか

 伊藤 それは、海外の公的年金基金の平均が、国内外の債券を合わせて35~40%だからです。いま、GPIFは海外債券で10%ぐらい持っていますから、本当はそちらも減らしてもいい。要するに全世界的に国債の金利は非常に低いので、これを持ち続けることはあまりよくないと、みんなが気づき始めているということです。

 海外も、昔は国債を90%持っていました、というところが多いのですが、それを15~20年かけて30%~40%ぐらいに下げています。そういう意味ではGPIFは遅れている。日本でも、インフレ目標政策を入れてデフレから脱却して、これから経済を活性化しようという時に、当然、国債の金利はこれから上がります(国債価格は下落)。そう考えれば、国債を多く持つことはリスクです。

 ――大きな資金を移すわけですから、それだけでも混乱が起きませんか

 伊藤 それほどマーケットインパクトが大きいとは思いません。ひとつは、日銀が「インフレ目標政策」を立てて、量的・質的緩和政策のもとに、1年に60兆~70兆円の国債を買っています。いまは、売り手が減ってきた状態なので、大きく売りに出しても問題が大きいとは思えない。一時的に日銀が買うペースを速めてもいい。そういう意味では日銀が買うことがわかっている現在の状況下で売るべきです。インフレ率が(目標である)2%に達して、継続することになると日銀の量的緩和は終了しますから、それからGPIFが売ろうとしても、手遅れになります。いまが売り時です。

 ――確かに今は金利が非常に低い状態ですが、これから、GPIFが売りますよ、ほかの公的資金も売りますということになると、上がる時には一気に上がることもあるのではないでしょうか

 伊藤 ないでしょうね。日銀が量的・質的緩和をやっているというのが大きな支えになっているので、いきなり、あす金利が2%になることはありえません。日銀がそういうことは許さない。逆に、インパクトがないように日銀は買っていくだろうから、そこは心配しなくてもいいだろうということです。日銀が、インフレ率が2%以下なら量的・質的緩和を継続しますと言っている以上、それは大丈夫です。

 ――インフレ率が2%になってしまうと、今度は日銀が買いづらくなります。そうなると、どこが先に手放すかという競争みたいな局面もありえます

 伊藤 だから、何を持ち続けているのだろう、みんな、という感じがありますよ。メガバンクは売っています。満期までの残存期間は非常に短い。

 ――GPIFは損失を回避できるとして、日銀は一時100兆円ぐらいだった国債が200兆円ぐらいに膨らんでいます。日銀は大丈夫なのですか

 伊藤 日銀は大丈夫ですよ。毎年、「通貨発行益」が出ていて、政府に納めている。日銀の利益は減りますが、日銀が潰れるということはない。日銀のバランスシートの上で損失は出るかもしれないけれども、それは評価損です。国債を売るわけではないので、実現損が出るわけじゃない。普通の企業であれば損失ですが、中央銀行の場合は満期まで持つと宣言すれば全然問題はない。取り付けが起きる銀行ではないですから。

 ――その理屈はGPIFも同じです

 伊藤 でも、GPIFは将来の受給者が損失を被ることになります。

 ――それも満期保有すればいいわけじゃないですか

 伊藤 その間に別のものを買っていれば、そのほうが利益が高くなります。GPIFは利益を出すのが目的ですが、日銀は利益を出すのが目的ではありません。

 ――GPIFは国債を持っているだけでは目的を達することができないのでしょうか

 伊藤 できないですね。GPIFは受給者のために運用を改善して、許容されるリスクのなかで、より高いリターンを求めることが目的です。これまでは、デフレだから国債でもよかったわけです。過去10年を見れば国債のリターンと、株式のリターンとは大きく変わりませんでした。

 ――そうすると、インフレになるとマイナスがはっきりと見えてきたと理解していいのですか

 伊藤 そう。政府と日銀が2%インフレに向かって努力している。いままで物価はマイナスで、金利が0.5%とか1%ぐらいの国債を持っていても、それは実質利回りとしては悪い投資ではなかった。これからは(インフレなので)、 ・・・続きを読む
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筆者

松浦新

松浦新(まつうら・しん) 朝日新聞経済部記者

1962年生まれ。NHK記者から89年に朝日新聞社に転じる。経済部、くらし編集部(現・文化くらしセンター)、週刊朝日編集部、特別報道部などを経て、現在は東京本社報道局経済部に所属。年金、医療をはじめとした社会保障制度に関心を持つ。金融商品や土地・住宅問題など、くらしと経済に関わる問題に関心がある。

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