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最上小国川ダムで問われる水産庁の役割

まさのあつこ

赤倉温泉の上流でヤマメ釣りを楽しむ釣り師=2014年5月撮影拡大赤倉温泉の上流でヤマメ釣りを楽しむ釣り師=2014年5月撮影

 スポーツ・フィッシングなど川を楽しむ権利が守れない日本の制度の中で、川の健全性を保つために口を出せるのは、漁師とその関係法を所管する水産庁である。東北で開かれるアユ釣りトーナメントのほとんどが開かれる最上川の支流「最上小国川(もがみおぐにがわ)」で、今、「穴あきダム」と呼ばれる流水型ダム建設を巡って、その役割が問われる事態が起きている。

子どもがヘビやヤマメやアユと泳いだ川

 「ダムのことはちょっと・・・」と口をつぐまれてしまうのダム計画地ではよくあることだ。山形県が進める最上小国川ダムの予定地から2~3キロ下流の「赤倉温泉街」でもそうである。しかし、昔の川のことなら目を輝かせて話すのを聞けるのも常である。

赤倉温泉街に暮らす人々が共同で使う「村乃湯」。昔はここの洗濯場で湯でオムツも洗い、柔らかに仕上がったと二代目女将は言う拡大赤倉温泉街に暮らす人々が共同で使う「村乃湯」。昔はここの洗濯場で湯でオムツも洗い、柔らかに仕上がったと二代目女将は言う

 「この川は昔は大人の肩の深さまであり、大人は俵に石を入れて積んで川にプールをつくって遊ばせてれました。子どもの頃は、潜るとヘビやヤマメやアユがたくさん泳いでいました」と語ってくれたのは、赤倉温泉街の中心にある「クラブ食堂」の三代目女将の田中郁子さんだ。母で二代目の女将あやこさん(写真)に、赤倉温泉観光協会が公開している昭和時代の写真を見せると、かつては「遠洋漁業から帰ってきた宮城県の漁師さんたちが大勢、家族連れで1カ月ほど長期滞在する宿だった」と昔の老舗旅館の賑わいを教えてくれた。

県が作った床止めで河床が上昇

 赤倉温泉の上流側は、今では土砂が貯まって泳げない深さになっている。「山の木が伐採され土砂が流れてくるようになった」からだというのが住民達の生活実感だが、流れて来た土砂が貯まるようになったことには理由があった。掘れば湯が出る河原の上に温泉宿を作ってできたのが赤倉温泉の成り立ちだ。

 湯量確保のために、かつては村人が共同で、木枠を組んで水位を上げた。しかし、洪水のたびに木枠は土砂とともに流され、また組み直した。いつの頃か県がそれを「床止め」と称してコンクリートで固定し、土砂が貯まり、河床が上がるようになった。県作成の川の縦断面図も、河床が最大2メートルほど高くなっていることが明らかであると、「最上小国川の清流を守る会」のメンバーでもある山形県の草島進一県議は指摘する(図解)。

草島進一・山形県議による説明図拡大草島進一・山形県議による説明図

 今年5月、同会が開催したシンポジウム「最上小国川の真の治水を求めて」のスピーカーとして現地を訪れた河川工学者の大熊孝・新潟大学名誉教授(写真)は、これを取っ払い、洪水時にはパタンと倒れる堰に変えれば、土砂も流されて河床は下がり、ダムなし治水も可能となるとの見解を明らかにした。

漁業権を盾に漁協を協議のテーブルにつかせた山形県

 しかし、山形県はこのような外部識者の知恵を顧みることなく、着々とダム建設計画を進めてきた。

赤倉温泉の下流部にあるコンクリート堰を望む大熊孝・新潟大学名誉教授拡大赤倉温泉の下流部にあるコンクリート堰を望む大熊孝・新潟大学名誉教授

 昨年末には、ダム建設に反対する小国川漁業組合に「公益性配慮」という言葉で、事実上ダム建設の容認を迫った。水産業を守ることが職務であるはずの農林水産部の阿部清次長が、10年の漁業権の期限が切れる直前に、ダム建設のための話し合いや測量に漁協が配慮することが更新条件であるかのように対外的に発言した。このような条件はもちろん、漁業振興が目的の漁業法では存在せず、果たして漁業権の切替は果たされた。

 それでも漁協は県が1月に開始した第一回目の治水に関する協議のテーブルにつき、その第二回の打ち合わせ予定だった2月10日未明に、ダム建設反対の先頭に立っていた沼沢勝善・前組合長が自死するという事態が起きた。

 新たに就任した高橋光明・新組合長は6月7日の組合の総代会で、「流水型ダムによる治水対策等の受け入れについての件」との議題でダム建設の賛否を問い、103人中、賛成57、反対46との議決を出した。新組合長は塗装会社の社長でもあり、総代会の一ヵ月前の5月17日には、最上町を拠点とする地元建設業者の集まりでダム賛成に回るとの意思表示を行っていた。方向転換は明らかであり、「賛成多数で漁協がダム建設を容認に転じた」と報じた地元メディアが大半だった。

赤倉温泉の上流側を橋から望む。この上流約2キロに最上小国川ダムが計画されている拡大赤倉温泉の上流側を橋から望む。この上流約2キロに最上小国川ダムが計画されている

 しかし、この日に、ダムに反対し続ける漁協組合員と共に、このやり方を「誤魔化しの手法」であるとの会見を行った熊本一規明治学院大教授の見解を報じたのは、釣り雑誌などの少数派メディアに限られた。ダム事業は海の埋立事業に並ぶ「開発」と「漁業権」がぶつかる代表例で、熊本教授は、「漁業法の神様」と呼ばれた水産官僚、浜本幸生さん直伝で漁業補償の歴史を熟知し、これまでにも漁業を守る立場を貫く漁師の側に立って、水産庁の伝統的な法解釈を伝え続けてきた。

全員の同意を必要とする通達は「有効」と水産庁

 熊本教授によれば、漁業権はあくまで漁業を営む者が1人ひとり持つ財産権である。ダム建設の容認はその権利の侵害を意味し、漁業補償を受ける場合は、組織としての多数欠ではなく、全員の同意を必要とする。

 ところが、 ・・・続きを読む
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筆者

まさのあつこ

まさのあつこ(まさの・あつこ) まさのあつこ(ジャーナリスト)

ジャーナリスト。川で泳ぐことが好き。1998年より衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。主な著書に、「四大公害病」(中公新書 2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館 2012年)、「日本で不妊治療を受けるということ」(岩波書店 2004年)。共著等に「ダムを造らない社会へ」(新泉社 2013年)、「八ツ場ダムは止まるか」(岩波書店 2005年)など。

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