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「アベノミクスの罠」、このままでは行き詰まる日本経済

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 大学生に「アベノミクスについてどう思う?」と聞けば、「成功してほしいですね」という反応が返ってくることが多い。「内容はよくわからないけど、うまくいかないと日本経済がだめになって、就職活動にも響くから」などと、切実な理由が若者たちにはある。集団的自衛権の容認について「戦争をするようになってしまうかも」と不安を隠せない学生たちの間で、にもかかわらず安倍政権の支持がなお底堅いように見えるのも、こうした「経済再生への期待」のなせるわざといえよう。しかし残念なことに、この期待は裏切られ、幻滅に変わろうとしているようだ。

 それはたんに、2014年4~6月期の実質国内総生産(GDP)が年率6・8%ものマイナスとなったというだけが理由ではない。来年に消費税率を10%にするかどうかの判断を控えているにもかかわらず、この政権が増税と成長の両立を図る政策を持ち合わせていないことがすでに4月の消費増税で見えてしまっているからである。それを「消費増税の罠」と呼ぶ人もいるだろうが、消費増税という課題をこなせないアベノミクスの限界あるいは自縄自縛こそが本質であると思うので、私はあえて「アベノミクスの罠」と呼びたい。

トリクルダウン方式は失敗

 端的に言えば、旧来型自民党の公共事業拡大策と、小泉政権の延長線上にある規制緩和・法人優遇策によって株価と企業収益を上向かせれば、いずれは富が家計にしたたり落ちるだろうという「トリクルダウン」の発想で経済を運営しているのがアベノミクスの実態である。この方式が成長を促し、消費増税による景気下押しを埋め合わせてくれるはずだ、という皮算用が現実のものとなる公算は小さい。

 こうしたトリクルダウン方式が世界で失敗したことはリーマン・ショックで示されたはずではないだろうか。それがいまの日本で成功するとしたら、せいぜい短期的なものに終わるか、あるいは世界経済の回復に伴う外需が日本経済を力強く牽引するといった特別な条件がある場合に限られるだろう。

 アベノミクスは企業収益の短期的な好転には貢献しているが、家計と消費には抑圧的に作用し、むしろ家計から所得を吸い上げている。「賃金がやがて上がれば…」式の幻想で期待をあおっても、現実がついてこなければ、実感は味わえない。厚生労働省が発表した6月の現金給与総額が平均43万7362円で、4カ月連続の増加を示してはいるものの、前年比の実質でみると3・8%も減少している。これでは ・・・続きを読む
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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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