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[4]外の敵と戦うため内なる敵を自覚せよ

まとめ:WEBRONZA編集部

竹信三恵子、深澤真紀

 深澤 今回の家事ハラの騒動でもう一つ興味深いなと私が思っているのは、「ちゃんと家事をする幻想」というか、「丁寧に暮らすシンドローム」みたいなものですね。

「丁寧に暮らすなんて幻想」と語り合う二人の話に聴き入る人たち=東京・神田神保町の東京堂ホール拡大「丁寧に暮らすなんて幻想」――。二人の話に聴き入る人たち=東京・神田神保町の東京堂ホール

 「丁寧に暮らしたいですか」と問いかければ、「いいえ」と答える女性はほとんどいない。家事ハラ騒動の背景には、女性がちゃんと家事をするという暗黙の了解のようなものが横たわっているんですね。例えば、いつ友達が訪ねてきても、きれいに部屋が整えられているから大丈夫とか、気の利いたものもすぐに出せる、なんていうような幻想です。

 竹信 無理だね。

 深澤 でもそういう幻想はあるんですよ。お米は土鍋で炊き、電子レンジも使わずに料理してというような。

 竹信 ああ、ありますね。

 深澤 「ちゃんと丁寧に暮らす幻想」みたいなことがある。しかもこの幻想からは、フェミニストすらもあまり逃れられないんですよね。家事の手抜きをしようとか、電子レンジでチンとか、コンビニめしで済まそうとか言うのは許されない。

 竹信 そんなにちゃんとしたいなら火を起こすところから始めればいいのにね。

 深澤 本当にそうですよね。あとすぐ「伝統が」とか言い出す。「着物をきちんと着られなきゃ日本の伝統が泣く」とか言うんですけど、日本の伝統だったら貫頭衣でも着ていればいいのに。

 竹信 そう。貫頭衣だよね。

 深澤 着物なんて、江戸期の大店のお嬢様が着ていただけだから。

 竹信 確かに。

 深澤 最近のコンビニめしなんかは相当ちゃんとしているからね。それなのに、「だめよ、コンビニなんて」と言われちゃう。私は、「いいじゃん、大変なときはコンビニで、けっこうおいしいよ」と思うんですよ。

 だから、我が家はもう「丁寧に暮らさない」と決めたんです。仕事も忙しいし、丁寧に暮らしてたら大変なことになっちゃうから。でも、この家事ハラに傷ついた女性たちは、丁寧に暮らさなくちゃという呪いにもかかっているんだと思うんですよ。

 竹信 そっちで怒ったということね。

 深澤 それもあると思うんです。洗濯物の干し方でもめたりするといいますけど、我が家は、例えば洗濯でも、私のおしゃれ着は私が洗い、夫は夫でこだわりのあるシャツなんかは自分で洗う。そのかわり、どうでもいい、伸びても構わないものは二人で洗うようにしている。だから、私、夫、どうでもいいというかごが三つあるんです。

 竹信 いいアイデアだ。

 深澤 それから食器用の洗剤も私は肌が弱いからせっけん系の洗剤しか使えないの。でも、夫はそれだと落ちが悪いと不満なんですよ。だから、我が家の台所には、お風呂場の銘々のシャンプーみたいに食器用の洗剤も2種類あるんです。どちらかに合わせることないですから。

 ただ、家事を二人でやると、いつの間にか嫁姑問題みたいになるんですね。それで、女性はなぜか姑の位置を取ろうとしてしまう。それでは嫁の立場にされてしまう夫はしんどいですよね。それはやめたほうがいい。友達同士のシェアハウスの家事のように分担した方がいいですよ。

 でも、我が家もお互いにお互いの家事にはちょっと不満を抱いていますよ。ただ、大事なことは何かというと、2人とも忙しいから家事さえできていればいい。そう思うことなんです。

 竹信 理想ですね。それは正しいスタイルですよ。

 深澤 でも家事ハラに怒った女性たちは、家事をきちんとしなければいけないという呪いにかかっているような気がします。

 竹信 そうでもないと思うよ、もっと違うことで怒っていると思う。

 深澤 もちろん違うことでも怒ってるは思いますよ。竹信さんとか私の家は適当だと思いますが(笑)、多くの働く女性たちはびっくりするぐらい忙しいのに、ちゃんとしているわけですよね。女性誌の影響も大きくて、「丁寧な暮らしを」とか、「夫婦で尊敬し合って、高め合って」とか、そういうコピーに支配されてしまう。

 竹信 抑圧的ですよね。

 深澤 夫婦なんか高め合わなくていいでですよ(笑)。

 竹信 南野忠晴さんという人が書いた岩波ジュニア新書で、『正しいパンツのたたみ方』というのがあって、たたみ方の流儀が夫と妻で違うという……。

 深澤 パンツのたたみ方って違いますよ。

 竹信 違うと妻に責められたりして。これは文化衝突なんですよね。

 深澤 本当にそうですね。

 竹信 だから異文化への許容度をもっと高めなきゃいけないという。

 深澤 夫は、隣の国のような異文化ですから。

 竹信 そう、隣の国なんだから関係ないんですよ。私も、部屋の中の夫の領域と自分の領域に線を引っ張って、相手のものは全部投げ込むとかしていた時期ありました。夫の本とか脱いだ服とか、片付けないまま増えていくので、頭に来て、線を引っ張って、 ・・・続きを読む
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筆者

竹信三恵子、深澤真紀

竹信三恵子、深澤真紀 

竹信三恵子(たけのぶみえこ)ジャーナリスト・和光大教授
東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授。NPO法人「アジア女性資料センター」と、同「官製ワーキングプア研究会」理事も務める。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
深澤真紀(ふかさわ・まき)コラムニスト・淑徳大学客員教授
1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。在学中に「私たちの就職手帖」副編集長を務める。卒業後いくつかの出版社で働き、1998年企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役就任。2006年に「草食男子」「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテン受賞。著書に、『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。