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「消費増税延期+衆議院解散」が安倍政権の最適政治戦略

吉松崇 経済金融アナリスト

 安倍首相による、来年秋に予定される消費税増税(8%→10%)を延期するか否かの決断の時期が迫っている。

 私は政治アナリストではないし、ましてや政治のインサイダーではないので、政権内部の非公開情報を持っている訳ではない。だが、最近の政治について誰もが知っている公開情報と現在の経済状況から考えると、私には、消費税の増税延期と衆議院の解散という組み合わせが、安倍政権にとっては、現在取り得る最適の戦略であるように思える。

理解できない増税延期と財政の信任問題

 「消費増税を延期すると、財政への信認が崩れかねない」と懸念を表明する人は多い。黒田日銀総裁もその一人で、これまでたびたび「財政への信認が一度崩れると取り返しがつかない」と発言している。このためか、10月31日の日銀の追加緩和と消費税増税はパッケージである、と考える人も多い。

 しかし、現在俎上に上っているのは「8%から10%への増税を1年半延期する」という話である。2%の消費税増税とは、税収としては多く見積もって6兆円程度であり、これを止めるのではなく、デフレ脱却が確実になり実質所得の上昇が見られるまで延期するという案である。この程度の金額のタイミングのずれの話が財政の信認の話になるとは、私には到底理解できない。

 「財政の信認」を懸念する人たちの多くが、一方で、日銀の量的緩和にも批判的であるようだ(もちろん、黒田日銀総裁は例外である)。「金融の量的緩和が市場で国債のマネタイゼーション(中央銀行による財政赤字のファイナンス)であると受け取られると、国債への信認が崩れて金利が急騰する」と警告する人たちである。

すでに行われているデット・マネタイゼーション

 だが、この見解をとるエコノミストはそもそも現状認識が間違っている。なぜなら、日銀は既にデット・マネタイゼーションを行っているからだ。既にデット・マネタイゼーションを行っているという点では、米FRBもバンク・オブ・イングランドも事情は同じである。

 日銀は既に250兆円の国債をそのバランス・シートの資産サイドに保有している。これは国債発行残高750兆円の1/3、 国と地方を合わせた政府債務残高1,200兆円の21%である。

 日銀のバランス・シートで、資産にある250兆円の国債をファイナンスしている負債は、市中民間銀行の「超過リザーブ」と呼ばれる日銀への預け金、つまり預金である。日銀はこの市中銀行が日銀に預けた預金に対して、現在0.1%の金利を払っている。

 一方、日銀の資産サイドにある国債からの受け取り利息は0.1%よりはるかに高いので、日銀は量的緩和に伴う金融調節、つまり国債の買い入れで大きな利益を上げている。

 日銀の純利益は国庫に納付されるので、日本政府の立場からこれを見ると、経済効果としては、日本政府は民間保有の国債に対しては所定の金利を払っているが、日銀保有の国債に対しては0.1%の金利を払っているに過ぎないことになる(「経済効果」と書いたのは、会計上は国債の支払い金利である国債費と日銀の国庫納付金は別勘定になっているからだ)。

増税延期にリスクも副作用もなし

 言い換えると、日銀が保有する250兆円の国債に関しては、政府の資金調達コストがほぼゼロになっている。これは文字どおり「中央銀行による財政赤字のファイナンス」、つまりマネタイゼーションそのものである。

 この膨大な金額のマネタイゼーションの結果が、 ・・・続きを読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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