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トヨタの「ミライ」は社会を変えるか

まずはエリアを絞った普及が現実的、柔軟で着実な歩みを

永井隆 ジャーナリスト

 「何もやらないことが、最大のリスクなのです」

 トヨタの田中義和・製品企画本部ZF主査は本音を吐露するかのように話した。田中氏は、トヨタが12月25日に発売する燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」の開発責任者だ。

トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」拡大トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」

 

 ミライは世界で初めての、FCVの本格的量産車(4人乗りセダン)。燃料電池(FC)は電池と名乗っているが、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて電気をつくるいわば発電装置。FCVはFCという発電装置を搭載した電動車両だ。FCが生んだ電気は、二次電池とモーターに送られ車を動かしていく。

 電気自動車(EV)と同様に、走行中には水しか排出しないため、FCVは「究極のエコカー」とも呼ばれる。EVは急速充電でも30分程度を要するが、FCVはガソリン車の給油と同じ程度の時間(約3分)で水素を補給できる。さらに、ミライの航続距離は約650kmで、日産のEV「リーフ」の約230kmを大きく凌ぐ。

 この「究極のエコカー」だが、ミライの生産計画は2015年末までに700台。国内販売目標は年400台で、官公庁や自治体を中心に既に200台を受注している。リーフは今年初めに発売から3年強で累計販売台数が10万台に達し(当初計画には遠く及ばないが)、今年10月末で約15万台となった。

 これに対し、年700台という小さな数字が示す通り、FCV「ミライ」はトヨタにとってのビッグチャレンジなのだ。

 世界で先陣を切るFCVという新技術へのブレークスルーにおいても、水素という古くて新しいエネルギーの利用と実用化の面でもである。

 特に後者。FCVをもって、脱炭素社会を目指した水素社会の到来を、トヨタは本当に導けるのか、どうか。まさに、何もやらないことを拒み、未知なる地平に打って出た形である。

 燃料電池が開発されたのは実は19世紀で、1839年に英国でのことだった。20世紀には、1965年に米国の宇宙船ジェミニの発電と飲料を供給するシステムとして使われた。だが、水素はエネルギーの主役にはなっていない。それは気体である水素そのもの ・・・続きを読む
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筆者

永井隆

永井隆(ながい・たかし) ジャーナリスト

ジャーナリスト。1958年生まれ、群馬県桐生市出身。明治大学卒。1992年、勤務先の新聞社が実質的に経営破たんし、新聞を休刊。これに伴い失業を経験。93年にフリーで独立。新著に「サントリー対キリン」(日本経済新聞出版社)。著書に「人事と出世の方程式」、「国産エコ技術の突破力!」、「ビール最終戦争」、「敗れざるサラリーマンたち」など。

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