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「アベノミクス選挙」、野党はここを攻めよ

景気対策、低所得者層対策、成長政策で本当の問題とは何か

若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授(経済学史)

 総選挙も終盤戦です。新聞、テレビなどのマスメディアの情勢調査では、与党の優勢が伝えられています。野党の側に有効な攻め手はあるのでしょうか。Q&A方式で解説します。

8党首討論会に臨んだ与野党の党首ら=2014年12月1日、都内拡大8党首討論会に臨んだ与野党の党首ら=2014年12月1日、都内

 

 Q 今回の総選挙で野党に攻める余地はあるのでしょうか?

 A もちろんあります。与党の政策の本当に足りないところ、本当に問題のあるところを指摘すればよいのです。

 安倍首相の経済政策に話を限定します。大きくいって、三つあると思います。第一に景気対策、第二に低所得者層対策、第三に成長政策です。

  景気対策というのはどういうことでしょうか?

  今回の消費税増税の影響はまだ残っています。なにしろ直近の経済指標を見ても、現状、先行きともに懸念すべきものがあります。雇用統計の良さは、過去の残影です。何も対策を打たなければ、これから半年も経つと悪化するでしょう。

 Q 現状で経済はどれくらい悪いのでしょうか?

 A 現状でどれくらい景気が悪いのかを示すのに一番良いのは、GDPギャップです。これは、実際のGDPと、設備や人間がフルに稼働していたならば得られたGDPとの差を示すもので、この差がマイナスになると不況を意味します。最新の統計によれば、GDPギャップはマイナス2.7パーセント。実額で14兆円程度です(「今週の指標 No.1109 2014年7-9月期GDP1次速報後のGDPギャップは前期から拡大」http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2014/1204/1109.html)。

 政府は、補正予算3兆円を計画しているといっていますが、これでは足りません。緊急的には、このギャップを埋めるような政策が必要になります。

 Q そうなると、また財政政策や金融政策でしょうか?こういう政策をいつまで続ければよいのでしょうか?

 A そういう感想はよくわかります。しかし、だからといって何もしない、あるいは少し景気が良くなったと思うと緊縮・引き締めに走ってしまうと、いつまで経っても日本は景気回復を果たしません。先に挙げたGDPギャップの推移を見ればわかるように、金融政策についてはともかく、政府がやれることといえば財政政策になります。これをかなりの規模、来年の本予算と今回の補正予算を合わせて、いわゆる15か月予算で、10兆円程度は出す必要があるかもしれません。消費税増税の悪影響をきちんと指摘し、先回りして代案を出すことこそ、野党が第一にすべきことです。

  でも先生は、従来型の財政政策には問題が多いと言っていませんでしたか。

 A その通りです。『朝日新聞』2014年12月2日の朝刊のインタビューで述べたように、いまだに、私は消費税の5%への減税が一番良いと思っています。それ以外では給付金、給付付税額控除、減税、社会保険料の徴収免除がいいですね。公共支出については、環境、福祉への支出を増やすのもいいです。民主党の「コンクリートから人へ」というスローガンは悪くないと思います。道路やインフラの整備は今後も必要ですから、まずは補修を中心に切り替えることも必要でしょう。

 Q 低所得者層として必要なのは何でしょうか。軽減税率を導入すべしという声が上がっていますが。

 A 軽減税率は、低所得者対策として見る限りは、あまり筋の良いものではありません。その問題点は、次のブログによくまとまっています(増澤陸「僕が軽減税率には絶対反対な理由」それ、僕が図解します、2014年12月5日。http://rick08.hatenablog.com/entry/2014/12/05/135909)。

 そこでは反対の理由として、

・コストが掛かり過ぎる
・対象品がわかりにくい
・すでに消費税が課税されていないものが結構ある
・税収が減る
・実は金持ちのほうが恩恵が大きい
・貧困者の救済策は他にも有る

 が挙げられています。

 多少補足しましょう。「対象品がわかりにくい」、ということに関連していうと、軽減税率は確かにイギリスやドイツでも導入されています。しかし、どちらでも問題が指摘されています。

  どういう問題が生じたのでしょうか?

  イギリスでは同じハンバーガーをレストランで食べると、通常税率の20%の付加価値税がかかりますが、テイクアウトで食べると軽減税率が適用され、0%になります。そこでイギリスでは、テイクアウトといって買ってその場で食べる人が出てきたそうです。これを取り締まるために、食品の提供温度を変えたそうです。しかし、ドイツのマクドナルドでは税率は異なっていても同じ値段で提供しているそうです(森信茂樹「消費税逆進性対策 ― なぜ軽減税率ではなく給付付き税額控除なのか」http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=963

  軽減税率は低所得者層にやさしいと思っていましたが、金持ちのほうに恩恵が高いのはどうしてでしょうか。たとえば、社会科では、家計支出に占める食費の割合であるエンゲル係数について学びました。それは高所得者層になるほど低くなると社会科でも習ってきたと思いますが。

  ここには日本の事情もあります。「実は金持ちのほうが恩恵が大きい」ということについては、次のブログが便利です(「軽減税率について考えてみた」政治について考えてみた、2013年12月10日。http://consideringpolitics.blog.fc2.com/blog-entry-7.html)。

 エンゲル係数は年収248万以下の低所得者層では25%です。その後、所得が上がると、エンゲル係数は下がりますが、その下がり方は小さく、年収364-503万円でも25%、503―722万円でも23.1%、それ以上になってやっと21%台になります。高所得者層も食費の支出が高いのです。こういうときの軽減税率は、低所得者対策ではありません。

 Q それでは、何をすればよいのでしょうか。

 A 現金の直接給付、給付付税額控除が一番良いでしょう。2015年10月から社会保障・税番号制度(マイナンバー)が発足することは良いことです。ただし、資産はあっても所得が低い層をどうするかという課題はありますね。

 ここには政治的なメリットもあります。軽減税率の政治的問題は、線引きが曖昧なところから、政治的裁量の余地が生じることです。現金の直接給付、給付付定額控除はこうした政治的裁量の余地を狭めます。かつて民主党政権が目指したのは「再分配の流通革命」でした。これは、各種の中間業者(業界団体)を飛ばして、直接国民に再分配をするもので、方向としては大変良いアイディアでした。

 Q 三番目の成長戦略についてはどうでしょうか。

 A 本当に有効な成長戦略を実行する、の一言に尽きます。その時のキーワードは、裁量を少なく、ルールを基本にする、になります。再分配政策の改革と同じ発想です。詳細については、以前、2013年7月の参議院選挙前のコラムで書いたので、そちらに譲ります(「参院選で争点になるべきは何か?二つのレジームから考察する」Webronza, 2013年7月18日)。

 いずれにせよ、選挙戦はすでに終盤になりました。与党が圧勝するともいわれています。しかし、政治はまだまだ続きます。仮に野党が敗北するとしたら、その反省に基づいて再起してもらいたいものです。


筆者

若田部昌澄

若田部昌澄(わかたべ・まさずみ) 早稲田大学政治経済学術院教授(経済学史)

早稲田大学政治経済学術院教授。1987年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院経済学研究科、トロント大学経済学大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学、ジョージ・メイソン大学、コロンビア大学客員研究員を歴任。専攻は経済学史。著書に『経済学者たちの闘い』(東洋経済新報社、2003年:増補版、2013年)、『危機の経済政策』(日本評論社、2009年:第31回石橋湛山賞)。共著に『昭和恐慌の研究』(東洋経済新報社、2004年:第47回日経・経済図書文化賞)。

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