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[1]そこに書かれていないものは何か

「資本所得対労働所得」というに二項対立だけでは説明できない現代の格差

吉松崇 経済金融アナリスト

ピケティ・ブーム日本上陸!

 トマ・ピケティ『21世紀の資本』の待望の日本語版がついに発売された。昨年春、英語版が発売されるやアメリカで大ベスト・セラーとなり、「ピケティ現象」とまで呼ばれるブームを巻き起こした大著の日本語版である。本稿執筆時点で、この700頁、5,900円の本が、日本でもアマゾン売り上げランキングの第1位である。アメリカでも日本でも、如何に多くの人々が経済格差の拡大を切実な問題だと考え、これに知的関心を惹きつけられているのかを物語っている。

 すでに、日本でも幾つかの雑誌がピケティの特集を組み、また入門書と称する幾つかの本が出版されている。だが、私としては、この本に興味を持たれた方は是非とも入門書に頼ることなく、この大著に挑戦されることをお薦めする。

 その理由は二つある。第一に、この本は入門書が必要なほど難しい本ではない。読んでいて楽しい歴史(経済史)の本である。幾つかの数式が出てくるが、殆どの人にとってこれが理解の妨げになるとは思えない。ピケティのウィットに富んだ歴史語りが、入門書では味わえない。

 第二に、入門書の中には、これはとても不思議なことだが、ピケティを語りつつアベノミックス批判を展開しているものがある。アベノミックスを批判するのは自由であるが、これをピケティと結びつけるのは誤解を招く、と私は思う。『21世紀の資本』は、ほぼ過去200年、つまり超長期の歴史(経済史)のトレンドについて語った本であり、短期の経済政策について何も語っていない。むしろ短期の経済変動を捨象して、長期のトレンドを語っている。

トマ・ピケティ氏=パリトマ・ピケティ氏=パリ

 ピケティ自身は、日本の現状にコメントを求められて、

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