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東大「SCHAFT」はなぜ日本を去ったのか

インターネットの普及で劇的に開けた世界への道

木代泰之

 東大のロボットベンチャー「SCHAFT」(注)がグーグルに100%買収されたのは2013年11月のことだ。ニュースは大学や産業界のみならず、経済産業省など政府中枢に衝撃を与えた。技術の海外流出をめぐる議論も起きた。騒ぎが収まった今、なぜ日本は本物のベンチャーを自国で育てられなかったのか、改めて考えてみたい。

グーグルにさらわれた期待の星

拡大ブロックを置いたでこぼこの道を歩くロボット=米フロリダ州マイアミ郊外

 SCHAFTはその年12月末、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が主催するロボティクスチャレンジに参加。車の運転、階段登り、消防ホースの接続、がれき除去、不整地歩行など8つのテストで驚異的なコントロール能力を見せ、マサチューセッツ工科大学(MIT)や米航空宇宙局(NASA)など世界の15チームを抑えて断トツの1位になった。

 政府はロボット技術を成長戦略の一つに据えている。その期待の星をグーグルが突然さらっていき、経産省は「なぜ海外なの?」と動揺を隠せなかった。しかし、SCHAFT買収にいたる経緯をたどると、産業の新陳代謝をベンチャーに期待する米国とは対照的に、日本の起業家が置かれている寒々しい状況が見えてくる。

 まず資金調達。日本のベンチャーキャピタル(VC)は長期投資に耐える資金力が乏しく、どうしても短期で利益を出そうとする。そのためカネと時間がかかるメカニック系ベンチャーを敬遠しがちだ。

圧倒的に少ない「エンジェル」

 ベンチャーを資金面で支える「エンジェル」も、米国と違って圧倒的に数が少ない。つまり、ベンチャーで成功→お金持ち→次世代のベンチャー支援に回る、という循環が生まれていない。

 新しいロボットモデルを一体作るには数千万円かかる。SCHAFTはグーグルと接触する前、国内のVCや官民投資ファンドである産業革新機構、有力企業などを訪ねて投融資を打診した。

 しかし、映像を見せると「面白い。だけど、どこに市場があるの?」と、体よく断られた。まだ市場がないからベンチャーが挑むのだが、肝心のそこが理解してもらえない。

拡大消火用ホースを栓に差し込もうと試みる日本人チーム「SCHAFT」のロボット=米フロリダ州マイアミ郊外

 結局、人脈を頼りに電話をかけたグーグルの責任者アンディー・ルービン氏が来日し、実物のデモを見て数百億円(推定)の買収金額を提示した。SCHAFTはこうして丸ごと海外に生きる場を見つけ、 ・・・続きを読む
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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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