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[3] ゴルフクラブの女人禁制は是か非か(上)

ついに女人禁制を廃したオーガスタナショナルとR&A

山口信吾 ゴルフ作家

男子限定の超名門クラブが女性会員受け入れ

 米国南部ジョージア州にあるオーガスタナショナルGCは、球聖ボビー・ジョーンズが1933年に設立した超閉鎖的な名門であり、毎年4月にマスターズ・トーナメントを主催することで知られている。

ボビー・ジョーンズの若き日の自叙伝。淡々とした体験談に含蓄のあるラウンドの心得や技術論がちりばめられている

 オーガスタナショナルGCの会員になるのは不可能に近い。会員数が約300と少ないうえに、入会の申し込みはできないのだ。退会者があったときに、候補者リストの中から数年もかけて選び出した人物を指名して新会員に招聘するのだという。

 設立以来、会員は白人男性だけに限られていた。人種差別だという批判が高まっても、私的なクラブなのだから入会者を選ぶ権利があると言い続けてきた。しかし、高まる批判にさらされ、1990年、オーガスタナショナルGCは初めて黒人男性を会員として受け入れた。

 2012年1月、マスターズ・トーナメントのスポンサーを長年務めてきたIBM社の最高経営責任者(CEO)に、バージニア・ロメッティが就任した。男性である4人の同社前CEOはいずれも会員に指名されたが、女性のロメッティ新CEOは指名されなかった。このことはマスターズ・トーナメントの開催中に大きな論議を呼び、オバマ大統領をはじめとする政界の大物が遺憾の意を表明した。女人禁制は時代錯誤であるとの声は高まるばかりであった。

 こうなってはさすがのオーガスタナショナルGCも白旗を上げるしかなかった。2012年8月20日、ライス元国務長官他の2人を初の女性会員として迎え入れた。オーガスタナショナルGCの80年余りにわたって続いた女人禁制はついに幕を下ろしたのだ。

 オーガスタナショナルGCが女性会員を受け入れたのを受けて、世間の目は女人禁制を続けるゴルフ総本山の「R&A」(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ)に注がれた。オーガスタナショナルGCが女性会員の受け入れを発表した4日後、ブラウン元英首相がスコットランド議会において、「オーガスタナショナルGCが女性を受け入れるのになぜR&Aは受け入れないのか。米国南部の州でできることを、なぜスコットランドではできないのか。我々はこの国の差別について真剣に考えなくてはならない」とR&Aを手厳しく非難した。

R&Aの格調高いクラブハウスを背にしたセントアンドルーズ・オールドコース18番グリーン(コースは市営でR&Aが所有しているわけではない)
 それから2年後、奇しくもスコットランドの独立の是非を問う住民投票があった2014年9月18日に、R&Aは女性会員受け入れの賛否を問う会員投票を実施した。世界中にいる約2400人の会員の4分の3が投票し、85%が賛成したという。時代の流れとはいえ、260年にわたる女人禁制の伝統を捨てるのは不本意だったに違いない。

 しかし、世界のゴルフを統括するという立場からすれば、高まる非難に抗して伝統にこだわるわけにはいかなかった。しかも、翌2015年には、全英オープンはR&Aのおひざ元のセントアンドルーズ・オールドコースで開催される。このまま女人禁制を続けていれば、

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