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テーマ原発と裁判

高浜原発再稼働停止の仮処分決定を読み解く

元裁判官の瀬木比呂志・明治大学法科大学院教授が着目するポイントとは

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 関西電力の高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働について、福井地裁の樋口英明裁判長は4月14日、住民側の訴えを認め、安全性に「多方面にわたる脆弱性がある」として再稼働を禁じる仮処分を命じた。

拡大高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分が出て、幕を掲げる申立人と弁護団ら=2015年4月14日午後2時26分、福井市の福井地裁、高橋一徳撮影

 高浜原発は、福島原発事故後に策定された新しい規制基準に基づいて原子力規制委員会による審査がおこなわれ、規制委は2月、再稼働の申請を認可している。だが、仮処分では「新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても原発の安全性は確保されない」と、新規制基準そのものが不十分であることにまで踏み込んだ。

 一方、鹿児島地裁の前田郁勝裁判長は同23日、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めを求めた住民の仮処分の申し立てを却下、対照的な判断を示した。ふたつの仮処分について、ベストセラー『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(講談社現代新書)の著者でもある元裁判官の瀬木比呂志・明治大学法科大学院教授に読み解いてもらった。

 ――まず、樋口裁判長が示した高浜原発再稼働禁止の仮処分命令をどう評価されますか。

 瀬木 ポイントは二つあります。

 原子力規制委員会が新規制基準に基づいて認可し、“ゴーサイン"を出した原発に対して初めての司法判断となりましたが、「新規制基準に適合していても十分に安全性を保証していない」と、非常に思い切った、かつ踏み込んだ判断をしました。これが一つ。

 二つ目は、若干、法律的な説明がいるのですが、この段階で仮処分を認容したということが大きいですね。実は、これまで住民側から出されていた仮処分の申し立ては、ことごとく裁判所に退けられているのです。ですから、このことの意味は大きい。

 仮処分には「被保全権利」と「保全の必要性」という二つの要件があるのですが、過去の仮処分の決定の多くは、「現時点で原発は止まっているので、あえて仮処分までして保全する必要性はない」ということで住民側の申し立てを却下してきたのです。

 裁判官としては、争いの中核的な「被保全権利」の判断にまでは踏み込まないで、「とりあえず今は原発が動いていないからいいじゃないか」と言って住民側の申し立てをはねつけちゃう。いまの一般的な裁判官だと、そうしたい誘惑を感じるはずなんです(苦笑)。もっとも、それが間違っている判断だとも言い切れないので、そういう判断が続いてきたこと自体は理解できますが。

 しかし今回は、“ゴーサイン"が出て、いつ再稼働するかわからない原発に対して、正面から「被保全権利」(今回の場合は、住民が人格権を侵害される具体的危険性のことを指す)を認める仮処分を認めた。ここに意義があります。仮処分というのは、本案を待っていては耐え難い損害を生じかねない場合、現時点で救済しようという非常に強力な効力をもつ裁判なのです。出版や建築の差し止めが出れば本当に出版したり建築したりできなくなります。それと同じように原発再稼働停止の仮処分が出れば、本当に原発が動かせなくなる。非常に大きな効力です。これを認めたということの意味は大きいですね。

 原子力規制委員会がお墨付きを与えた原発の扱いをどうするのかが、原発訴訟における日本の司法の正念場と私は考えてきたので、なおのこと、この意義は大きいですね。

 《瀬木氏が指摘するように過去の原発再稼働禁止を求める住民側の仮処分申請は、ことごとく裁判所に退けられている。大津地裁の山本善彦裁判長は2014年11月、関電の高浜3、4号機と大飯3、4号機の再稼働禁止を求めた住民側の請求を「原子力規制委員会の審査中であり、差し止める必要性は認められない」として却下した。大阪地裁の小野憲一裁判長も13年4月、こちらは運転中だったが、大飯3、4号機の運転差し止めを求めた住民側の仮処分申し立てを「具体的な危険性は認められない」と却下している》

 ――一方で、この仮処分決定の論理だと、日本中の原発が動かせなくなるのではないかと思いました。新規制基準のどこが不十分なのか、あるいは高浜原発のどこが危険なのか、もっと突っ込んでもよかったように思います。

 《仮処分では、新潟県中越沖地震の際の柏崎刈羽原発や東日本大震災時の福島第一、女川原発など、過去に5回も想定した地震動を超える地震がおきていることを踏まえ、高浜原発の地震想定だけが「信頼に値するという根拠は見いだせない」と指摘している。さらに高浜原発の基準地震動(700ガル)を下回る地震でも、外部電源が断たれ、主給水ポンプが破損し、給水できなくなる恐れがあることを、当の関電自身が自認している点も強調。いかに多重防護といっても「第一陣の備えが貧弱のため、いきなり背水の陣となる備えの在り方は多重防護の意義から外れる」と断じ、基準地震動の700ガル未満の地震でも冷却機能喪失による炉心損傷の危険性が認められる、としている。また、使用済み燃料についても、「深刻な事故はめったにおきないだろう」という甘い見通しのもと、格納容器のような堅固な施設に閉じ込められていないことを問題視した》

 瀬木 基準地震動が甘いとか、外部電源と給水の耐震基準が見直されていないなど、さまざまな脆弱性があると言っているとは思います。

 ですが、あえて言えば、樋口裁判官の判断方法はちょっと粗い。関電側の主張を簡単に切り捨てていて、 ・・・続きを読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(2012年、講談社、13年に文庫化)を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(06年、朝日新聞社、10年に文庫化)、『ヒルズ黙示録・最終章』(06年、朝日新書)、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(10年、朝日新聞出版)がある。近著は、編著者としてかかわった『ジャーナリズムの現場から』(14年、講談社現代新書)。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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