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安保法制、「怒りのデス・ロード」を突破せよ

今は「社会脳」の活動を停止すべきとき

香山リカ 精神科医、立教大学現代心理学部教授

 アクション大作『マッド・マックス』の新作が27年ぶりに公開され、世界的大ヒットとなっている。原題は『Mad Max: Fury Road』だが、日本版のサブタイトルは「怒りのデス・ロード」だ。舞台はこれまでの3作同様、核戦争後、荒廃した近未来。国家も民族も崩壊し、荒野に暮らす部族的な小集団が水や石油を手に入れるためしのぎを削っている。

徹底した「マイノリティvs.権力者」の物語

 『マッド・マックス』ファンの私は早速、見に行き、心から驚いた。激しすぎるカー・アクションと個性的すぎるキャラクターに、だけではない。本作は、徹底した「マイノリティvs.権力者」の物語なのだ。

 権力者の代表は、暴力とカリスマ性で集団を支配するイモータン・ジョー。

 それに対抗するマイノリティとは、権力者の「子産み女」たち、左腕が義手の女性戦闘員、故郷を失った高齢女性集団、病のため常に輸血を必要とする若い男性、そして妻子を殺され幻覚に苦しむマックス。

 イモータン・ジョーの被支配地域にいるのも、戦闘員以外は子ども、病人、貧困な高齢者などマイノリティばかりだ。また、その戦闘員の若者たちにしても、強い承認欲求にとりつかれ、ジョーから名前を覚えられ“自爆攻撃"で「よく死んだ」と思われることが最大の名誉と感じている社会的マイノリティと言ってもよい。前3作に続いて本作でもメガホンを取ったジョージ・ミラー監督は2003年にはすでに脚本を書き終えており、諸般の事情で撮影が12年にまでずれ込んだとのことだが、その後の「イスラム国」の台頭を予兆するかのような内容ともいえる。

敵に対して完全に非寛容なマイノリティ

 胸に迫るのは、マイノリティ軍団の徹底的な抗戦ぶりだ。強大なジョー軍団に比べらればあまりに微力な彼らだが、それぞれ得意なスキルを使い力を合わせて抵抗と脱走を試み続ける。そして、彼らは敵に対して完全に非寛容でもある。

 興味深いことに、ある時点までは「男性警官」というマジョリティに属していたマックスだけが、途中、敵の戦闘員に対して恩情を示すシーンがある。しかし、とくに凌辱され隷従を強いられ続けてきた女性たちは、ジョーやその部下たちに対して一切の妥協や譲歩の姿勢を見せることがない。

 憎悪をむき出しに突き進む女性たちの姿に嫌悪感を抱く人もいるかもしれないが、敵に対してやさしさの片鱗でも見せたとしたらその瞬間にあの非人間的な暮らしに舞い戻ってしまうことを、彼女たちは皮膚感覚で知っているのだ。

 本当に追い詰められたマイノリティが権力者に立ち向かう道は、「寛容さ無し(=ゼロ・トレランス)」の徹底抗戦しかない。『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』はそのことを教えてくれる映画でもある。

安保法制でなりふりかまわない首相

インターネット放送に出演し、安保法制について説明する安倍晋三首相。左は自民党の大沼瑞穂参院議員=2015年7月6日夜、東京・永田町の自民党本部、代表撮影

 転じて、わが国の国内情勢はどうであろうか。

 安保関連法案は、早ければ今月15日にも衆院で強行採決という話もあり、何としても今国会内で成立させようという現政権の“執念"が感じられる。安倍晋三首相は、7月6日から5回にわたり自民党インターネット放送『CafeSta』に生出演、

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