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人工知能よ、君は何を目指しているのか

人間は身体感覚や他人への共感力を急速に失いつつあるのではないか

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 ビッグデータ、人工知能――最先端の技術が日常生活の隅々にまで入り込んできている。「人類にパラダイムシフトが起きる。社会は変革され、企業は優勝劣敗」という予測しきりで、新しいIT技術が登場するたびに企業も人間も順応を競い合っている。

 しかし、このまま進めば、社会はどう変化し、人間はどうなっていくのだろうか。コンピューターが人間の知能を超える未来のある時点を技術的特異点(シンギュラリティ)といい、「2045年問題」とも言われる。そこまで行く前に、現時点でとりあえず立ち止まって考え直してみるのも無益ではないだろう。

 最初に、ビッグデータや人工知能の発達が社会に役立ちそうな身近な事例を2つ紹介しよう。

 (1)日本の医療で面白いデータが出ている。国民の様々な病気の発生率を、膨大な患者データをもとに調べてみると、地域ごとの発生率に驚くほど差があることが分かってきた。

 今の病院の医療サービスは、全国均一に病気が発生するという想定のもとに、一律の内容で整備されている。しかし、発生率に差があるなら、地域の実情に合わせてメリハリの利いたサービス内容に変更した方がムダがなく効率も高まる。もし数%でも効率アップすれば、国の医療費を年間数千億円ほど改善できるという。

 (2)韓国で4月に開かれた国際会議で、サムスンがこんな発表をした。携帯電話会社と協力して深夜のモバイルデータを解析したところ、どの地域に人がどれくらい集まっているかという分布がくっきり見えるようになった。もし人が多い地域を選んで深夜バスを走らせれば、公共サービスとして効率的だし、市民も便利になる。

 韓国では、バス路線は不動産価値が高いというので利権になっている。路線変更は簡単ではないが、有力な裏付けデータになると期待されるという。

 この2つの事例は、データベースの世界的な研究者である喜連川(きつれがわ)優・国立情報学研究所長が明かした最近の成果である(「無限大」サイト)。他にも気象予測、

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