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孤独死を一人でもなくすためにできること

首都圏団地の現場から考える

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 孤独死の数は全国で年間3万人と言われ、年々増えている。高齢社会白書によると、2015年の全国の1人暮らし(独居)高齢者は601万世帯だが、35年には1.3倍の762万世帯に増える(グラフ1)。独居高齢者へのアンケートでは半数近くが孤独死を意識しており、いつでも誰にでも起こりうる身近な問題になっている。

 具体例として、千葉・松戸市で発生した孤独死の推移(グラフ2)を見よう。グラフは同市の開業医・堂垂(どうたれ)伸治氏(千葉大学医学部臨床教授)が作成した。2002年は90人だったが、2013,4年には180人前後と2倍に増え、松戸市の年間死者の5%を占めている。

 松戸市を取り上げるのは、この市が東京のベッドタウンとして、戦後の高度経済成長から現在の少子高齢化に至る社会変化を如実に体現している街だからである。

 なかでも常盤平団地は、1960年に日本住宅公団が建設した全国有数の巨大団地である。総戸数は約5300戸。幼稚園、小中学校、郵便局などを備え、設備はモダンで東京に通勤するサラリーマン層に大人気だった。

 55年後の今、団地はケヤキ並木がうっそうと茂り、日中も物静かだ。子供は成長して家を去り、人口は3分の1に減少、後には高齢者が残された。住民6500人のうち65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は44%で、全国平均の26%よりかなり高い。ここは今後急速に高齢化が進む「首都圏問題」を先取りした団地なのだ。

 団地の最大の関心事は「孤独死の予防」である。4階建て住宅の一室で、2日前まで元気だった人が突然亡くなったりする。高血圧が原因にからむ死、つまり心筋梗塞で死ぬ人の確率が高いという。孤独死の現場は悲惨だ。発見が遅れ悪臭がひどくなると、周囲の部屋にも流れ込む。清掃処理に費用がかかり、不動産価値は下落する。

 堂垂医師は、孤独死を少しでも減らそうと、工学院大学やIT企業と協力して2008年に「一人暮らしあんしん電話」を自ら開発し、運用してきた。13年には松戸市医師会が後援に踏み切り、15年度からは松戸市の補助事業になっている。

 パソコンに診療所からの問いかけの音声を録音し、

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