メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[1]生き残りをかけ、欧米メディアの変身が続く

小林恭子 在英ジャーナリスト

新聞業界の見本市としては世界最大規模

 今月5日から7日、独ハンブルグで、「世界出版エキスポ」 (世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA=主催)が開催された。

「世界出版エキスポ」はハンブルグメッセで開催された拡大「世界出版エキスポ」はハンブルグメッセで開催された
 新聞社・新聞発行業界の見本市としては世界最大規模と言われ、会場となったハンブルグ・メッセには79か国から約7000人に上る印刷機械メーカー、新聞、広告、ネットメディア関係者が訪れた。

 エキスポの場を借りて同時に開催された「国際ニュースルームサミット」(5日)、「モバイル・ニュースサミット」(6日)で紹介された、世界のニュースメディアの実践例、トレンド、未来像を3回に分けてリポートしてみたい。

 WAN-IFRAは世界の新聞社の国際的な組織で、約1万8千の紙媒体、1万5千のオンラインサイト、日本も含む120カ国以上の3千余の企業が会員となっており、報道の自由、ジャーナリズムの質の向上、メディアビジネスの活性化などを目指して活動している。第1回目は大手メディアの新時代への対処法に注目した。

世界の27億人が新聞を読む でも「紙の新聞離れ」は深刻

 まず、世界のニュース業界の現状を把握してみたい。
 WAN-IFRAが発行する「世界の新聞トレンド 2015年版」(実際の数字は2014年のもの)によると、紙の新聞を読んでいる人は27億人。電子版をデスクトップのパソコンで読む人は約7億7000万人だ。

 紙媒体の発行部数は前年(2013年)と比較して6・4%増、5年前との比較では16・5%増えている。これはインドやほかのアジア諸国での伸びが大きく貢献しているためだ。

 地域別にみると、部数が増えているのがアジア(前年比9・8%、以下同)、アフリカおよび中東(1・2%)、ラテンアメリカ(0.6%)。減少はオーストラリアおよびオセアニア(5・3%)、欧州(4・5%)、北米(カナダと米国)(1・3%)。

 5年間のスパンで比較すると、地域差がさらに明瞭になる。増加組がアジア(32・7%)、アフリカおよび中東(3.7%)、ラテンアメリカ(2・9%)で、減少組がオーストラリアおよびオセアニア(22.3%)、欧州(21.3%)、北米(8.7%)だ。

 「紙の新聞離れ」が深刻なのは、オーストラリアおよびオセアニア、欧州、北米であることが分かる。新聞業界の収入の93%は紙の新聞の販売(購読料、広告収入など)から生じており、「紙はまだお金を稼げる」状態だ。しかし、収入の内訳を見ると、印刷・電子版の発行から生じる収入(920億ドル、約11兆円)が広告収入(860億ドル)を上回った。電子版からの広告収入はまだかなり低いため、今後もこの傾向が続く見込みだ。広告主ではなく、読者が新聞経営を支える時代に入った。

 電子版は販売収入(25億ドル、前年比45%増)、広告収入(95億ドル、同8・5%増)、発行部数(約1198万部、56%増)のいずれも目覚ましい拡大を記録した。

 しかし、電子版の広告収入の増加で大きな恩恵を受けたのは検索エンジンやソーシャルメディア。グーグルが38%、フェイスブックが10%を獲得している。新聞社がグーグルやフェイスブックの存在に危機感を感じ、できうる限り自社サイトにユーザーを呼び込むために努力をする背景がここにある。

ニュースルーム(編集室)は変貌を遂げている最中

 紙の新聞の発行が経営の基盤だった新聞社が、いかにデジタル時代に対応するかが大きな課題となっている。特に欧州や米メディアの危機感が強い。

 5日開催された「国際ニュースルーム・サミット」では各社の工夫が紹介された。スイスの地方紙「24時間新聞」はデジタル時代の激震に揺れる新聞の1つだ。

 ティエリ・マイヤー編集長によれば「過去10年で収入が45%下落した」。部数は2006年の9万5千部から今は約6万部へ。現在も収入の90%以上が紙の販売から来ているもの、生き残りのために編集室の印刷部門とウェブ部門を完全に統合させた。電子版の制作を中心に1日の編集作業が進む。

 編集長によれば、紙オンリーの時よりも、読者の意見を取り入れることをモットーとしている。どんなトピックが好まれているかを探る調査チームを立ち上げた。読者との意見交換会を設けたり、フェイスブックを通じて、声をすくいあげたりする。「電子版の読者は紙の読者よりも20歳は若い。この層にリーチするように、力を入れている」(マイヤー氏)。

 ドイツの大手紙「南ドイツ新聞」では紙の制作と電子版の制作の統合化の真っ最中だ。紙を重視する思考をどのように変えるのかが大きな課題の1つだという(ウオルフガング・クラチ編集長)。

 紙版に原稿を書くばかりか、ネットにも書き、できれば動画も制作、そしてソーシャルメディアも使う、いわゆるマルチでの仕事が記者に要求される。「仕事が増えることを心配するスタッフがいる一方で、統合化は人員削減につながると心配するスタッフもいた」(編集長)。

 「自由な気風を持つ新聞でも、デスククラスは保守的」という現実に直面しながらも、一人一人のスタッフにどんな業務が期待されているかを説明し、紙版と電子版のスタッフの席を隣同士にするなど、互いに常時、情報を交換し、話ができるようにした。

 最終的にはすべての分野で統合化する予定だが、現状は分野によってはあえて別にしている。スポーツと経済は紙と電子版スタッフとがともに作業をするが、文化面はすぐに情報を読みたい人(映画やテレビ評)と、翌日じっくり紙面で読みたい人(演劇欄)がいるからだという。

 「統合化は楽ではない。成功しているという人がいたら、疑ってかかることだ」(クラチ編集長)

・・・続きを読む
(残り:約2321文字/本文:約4662文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

小林恭子の新着記事

もっと見る