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[24]「女性に優しい」労務管理の壁を越える

竹信三恵子

  「資生堂ショック」が話題になっている。今年春に女性管理職が27%に達するなどで「女性に優しい会社」のイメージが強い同社が、子育て社員にも他の社員と同等の勤務やノルマを求める方向に転換し、それが「子育て支援の後退」と受け止められたからだ。だが、その中身から見えてくるのは、「後退」というより「子育てがない社員がフツー」から「子育て社員がフツー」への転換ともいえる動きだ。

見えてきた「異なる側面」

 今回の転換の対象になったのは、百貨店などで化粧品販売を担当する資生堂の美容部員だ。1日18人以上の接客が目標とされ、勤務は午前10時から午後6時45分までの「早番」、午前11時15分から午後8時までの「遅番」があるという。

床と腰壁に和泉葛城山系のスギ材を使った乳児室。子どもたちがほのかに木の香りが漂う中で遊ぶ=大阪府高槻市の柱本保育園  

拡大床と腰壁に和泉葛城山系のスギ材を使った乳児室。子どもたちがほのかに木の香りが漂う中で遊ぶ=大阪府高槻市の柱本保育園

 「短時間勤務制度」を利用すると、早番の終わりの時間を2時間短縮でき、子育て社員は保育園のお迎えなどがしやすくなる。会社が制度の利用を促したこともあり、全国に約1万人の美容部員のうち、子育て社員約1200人がこの制度を利用している。

 だが、利用者が増えた結果、子育てのない社員に業務が集中して不公平感が生まれ、また、繁忙時間帯の人手不足が業績悪化の一因とされたて、今回の転換となった。

 ネット上では「あの資生堂でさえ子育て支援をやめた」「日本企業には子育て支援は無理」「子育て支援策が既得権益となり権利ばかり主張する社員のわがままが問題になっている」といった論調があふれた。だが、同社関係者の話を聞くと、異なる側面が見えてくる。

「マミートラック」ではない道

 まず、今回の転換に際して、会社は子育て社員に対し、夫や家族の協力が得られるかなどを聞き取り、それに応じてシフトを決めている。協力者がいないとわかったときは、ベビーシッターの費用を補助したり、地域の子育てサービスの活用を助言したりして、働き続ける方策を一緒に考えていく姿勢をとっている。

 働き手の工夫や負担を伴う転換であり、丁寧な面談がないと女性社員への仕事と育児の二重負担の強要に落ち込みかねない危うさをはらんではいるが、「子育て支援の継続」であり、放棄や後退ではない。

 子育て社員が「マミートラック」と呼ばれる業務軽減コースに押し込められ、子育て時間と引き換えにやりたい仕事や昇進を事実上あきらめさせられてしまうケースは少なくない。そうした方向を転換し、社員に子育てがあることを前提に、会社の要請に見合った働き方を続ける方法を探る苦肉の試みともいえる。

 日本企業の労務管理は、家庭に妻がいることを前提に、家庭を顧みない長時間労働を担えなければ一人前の社員にはなれないとして、子育て女性を排除してきた。私はこれを「妻つき男性モデル」と呼んでいる。資生堂の試みは、この「妻つき男性モデル=標準労働者(子育てがない社員がフツー)」から、「子育て女性モデル=標準労働者(子育て社員がフツー)」への転換のための一歩と位置づけることができそうだ。

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) 和光大学現代人間学部現代社会学科教授

和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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