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子育てや介護をしていては成立しない「正社員」

「非正社員4割超え」の背景にある福祉の後退が貧困の新たな温床に 

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」で、非正社員が40・0%とついに4割を超えた。人件費コストの抑制による収益向上という企業の動きが相変わらず止まっていないことを示す数字だが、もうひとつ見えてきたのは、少子高齢化についていけない正社員の働き方の歪(ゆが)みの拡大だ。

増える「家庭の事情との両立」

 今回の非正規比率の押し上げ役は、パートと嘱託社員だ。会社への調査で「増えた」とされる1位がパートで2位が嘱託社員だからだ。嘱託社員は、年金の支給開始年齢が繰り上げられ、2012年の改正高齢者雇用対策法で定年後の社員の再雇用が義務付けられたことが、増加の背中を押した。

 パートを雇う理由は、「賃金の節約」が41・5%でもっとも多いのは相変わらずだが、注目されるのは「正社員を確保できないため」が増えている点だ。この項目は非正社員全体でも増え、景気回復ムードで人手不足が表面化したと言えそうだ。

 ただ、働く側を対象にした個人調査からは、別の側面が見えてくる。

国会内の会合で、派遣法改正への不安を訴える派遣社員ら(手前)=2015年6月

 働き手が非正社員を選んだ理由の1位は、前回と同じく「自分に都合のいい時間に働けるから」だが、その比率はやや減り、一方で「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」が増えている。一見、自発的な選択に見えるが、つまりは両立しつつ正社員として働ける会社がない、ということだ。

 少子高齢化の中で介護負担が増え、夫の賃金の低下で子どもを育てながら働かなければならない家庭も増えている。にもかかわらず、会社の言うままに長時間労働や転勤を引き受けないと正社員になれない労務管理は相変わらずだ。介護や子育てを抱える働き手の増加と、正社員の長時間拘束との間の乖離(かいり)の拡大によって、正社員を確保できずにパートなどを雇う会社が増え、同時に両立ができないために正社員になれない人が増えるというミスマッチを引き起こす。現行の正社員のあり方の歪みがそこにある。

「強制された自発性」と新たな貧困の温床

 ここで問題になるのは、両立が難しいような正社員の働き方を受け入れないと、安定雇用や生活できる賃金が確保できないという仕組みだ。

 今回の調査では、非正社員の満足度は全般に高いが、他方、賃金と処遇には不満度が高い。ちなみに、女性パートの時給は正社員男性の賃金の時給換算を100とすると50%程度だ。「夫がいる女性の家計補助」として見過ごしにされてきた非正社員の極端な低賃金がいまも続いているのだ。しかも、こうした層は、福祉の不足・後退によって拡大している。これが「非正社員4割超え」のもうひとつの背景だ。

 育児や介護を抱えた働き手が非正社員を選ぶのは、長時間労働に加え、保育所不足や介護サービスなどの福祉的支援が不備でフルタイムで働けないからだ。政府は「介護離職ゼロ」を打ち出しているが、総務省の2012年就業構造基本調査によると、介護や看護を理由にした離職者は年間10万人を超える。その多くが40代、50代といった働き盛り世代で、その8割以上を女性が占めている。こうした人々の多くが、「家庭の事情との両立」を理由に非正社員を「希望」することになり、その結果、低賃金に追い込まれる。「強制された自発性」だ。

 今回、非正規比率を押し上げる一因となった嘱託社員も、定年までの短期契約だから待遇は非正社員とされ、大幅に賃金が下がる例が多い。運転手や清掃労働者などが加入する全日建連帯ユニオン(全日本建設運輸連帯労働組合)では、60歳定年後に再雇用扱いになったために仕事はまったく変わらないのに賃金が大幅に減らされたとして、トラック運転手の組合員が、不合理な格差を禁じた労働契約法20条違反だとして訴訟を起こした。

 年金の支給繰り上げという福祉の後退が、低賃金の非正社員数を押し上げ、貧困の新たな温床になっていく形だ。

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