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[1]21世紀における日本の経済人の責務

辻野晃一郎 アレックス株式会社代表取締役社長兼CEO、早稲田大学商学学術院客員教授

日本の国際的位置は異なる次元に突入している

 先日のパリでの痛ましいテロには世界中が大きな衝撃を受けた。私も慌ててパリの友人達に連絡をして安否を確認したが、テロという無差別な暴力が身近な日常に入り込んできた感を強くした。フランスのオランド大統領は、「これは戦争だ」と宣言している。ロシアの旅客機墜落もテロと断定されたが、世界のいたる所で根深い憎しみの連鎖が加速し、テロにしろ戦争にしろ、大勢の罪もない人達の命を奪い続けている。

パリ同時テロで被害を受け、ようやく再開したバーカフェ「ボン・ビエール」。オーナーが店前で記者会見した=2015年12月4日、パリパリ同時テロで被害を受け、ようやく再開したバーカフェ「ボン・ビエール」。オーナーが店前で記者会見した=2015年12月4日、パリ

 政治家が好んで使う台詞(せりふ)「テロに屈しない」という言葉の意味はなんだろう? と考え込んでしまう。誰かがどこかで「テロに屈しない」という勇ましい言葉を発するたびに、またどこかで報復攻撃や報復テロが起きる。この連鎖を断ち切る知恵を人類は持ち合わせていないのだろうか。

 我が国では、9月19日未明に、一連の安全保障関連法案が参院本会議で与党などの賛成多数で可決された。これにより、我が国の戦後の安全保障に対する立場は大きく転換することになった。多くの憲法学者が違憲と断じる中での今回の法案成立を巡っては、中身の是非に加えて、そのやり方についても立憲主義の否定につながるものとして論争となった。

 積極的平和外交の名の下に、安保関連法案が成立、集団的自衛権が容認されて有志連合にも名を連ねる我が国は、IS(イスラム国)から攻撃対象国としてはっきりと名指しされている。実際、今年初めには2人の日本人が彼らに殺害された。今や国内においても、パリやニューヨークと同様に、テロの標的としてのリスクが高まっていると認識せざるを得ない。これまでの平和外交の成果で、長く中立の立場を保ってきた日本の国際的ポジションは、既に全く異なる次元に突入しているのだ。

世界最大級の武器展示会

 安保関連法案の成立と時を同じくして、9月15日から18日まで、英ロンドンで、世界最大級の武器展示会「国際防衛装備品展示会(Defence and Security Equipment International Exhibition、DSEi)」が開催された。

海上自衛隊が展示した潜水艦の模型をマレーシア軍幹部が見ていた=2015年5月、横浜市のパシフィコ横浜海上自衛隊が展示した潜水艦の模型をマレーシア軍幹部が見ていた=2015年5月、横浜市のパシフィコ横浜

 四十カ国以上から約1500の企業などが参加し、機関銃や戦車から医療装備、対爆装備まで、最新の軍事関連商品が出展されて活発な商談が展開されたが、日本からも八社が出展し、加えて今回は防衛省も初めてブースを構えた。

 日本政府は昨年、従来の武器輸出三原則に替えて、条件を満たせば、武器の輸出や海外との技術協力を認める「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。これにより、防衛省や関連企業は、防衛装備の輸出ビジネス拡大に向けたアクションを積極展開しているのだ。安保関連法案成立の背後に、こういう経済活動があることを見逃してはならない。

 実際、11月26日、政府は、国家安全保障会議(NSC)において、オーストラリアからの次期潜水艦受注を目指し、「防衛装備移転三原則」に基づいて、機密性の高い技術を多く搭載する潜水艦の輸出や技術移転を認めることを正式決定した。オーストラリアに提案するのは「そうりゅう」型と呼ばれる最新鋭潜水艦であるが、早速、政府主導での積極的な「武器輸出」外交が始まっているのだ。

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