メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

今度は相場操縦疑惑 村上世彰氏

証券監視委・佐々木事務局長と因縁の対決、「終値関与」が焦点か?

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

疑われた投資手法

強制調査を終え、村上氏の関連会社の入るビルから段ボールを運び出す証券取引等監視委の職員ら=2015年11月拡大

 インサイダー取引で有罪判決を受けた旧村上ファンド主宰者、村上世彰氏に今度は相場操縦の嫌疑がかかっている。証券取引等監視委員会は11月、金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いがあるとして、村上氏が実施支配する投資会社などを強制調査した。

 対する村上氏は12月、「長年関わってきた株式市場を裏切るような相場操縦をする意図も理由もなく、また市場を混乱させたようなこともありません」「相場操縦するということは、私の理念と相反することです」などと弁明する声明を公表した。

 いずれ疑惑について争われることになるだろうが、こうした問題が生じた背景には、村上氏率いる投資会社にブレーキ役が不在で、村上氏のワンマン化が進んでいることもあるだろう。

会見する村上世彰氏=2005年10月、大阪市拡大会見する村上世彰氏=2005年10月、大阪市

 村上氏の声明によると、村上氏が「実質的に50%ないし100%保有しており、いずれも私=村上氏=が株式売買の発注権限を持って」いる複数の投資会社が取引にかかわっている。

 この声明によれば、村上氏の投資会社は2012年暮れ、総合衣料会社TSIホールディングス(東証一部上場)の560万株を保有し、発行済み株式総数に占める割合は4・9%にまでなっていた。

 TSI社は、ともに婦人服メーカーの東京スタイルとサンエー・インターナショナルが11年に経営統合して設立されたもので、村上氏にとって、前身の東京スタイルの株主総会でプロキシー・ファイト(委任状争奪競争)を繰り広げたことのある「思い入れのある会社」である。議決権比率を4・9%にとどめたのは、5%を超えると財務局に提出しなければならない大量保有報告ルールに縛られたくなかったからだと推測される。

 村上氏は、14年までの間にTSIの三宅正彦会長に対して本業の赤字の削減、自己株式取得による資本効率の向上などを株主として提案したが、実行されなかったため、当時、村上氏にとって主力投資先だったアコーディア・ゴルフ(東証一部上場)への投資資金を確保しようとTSI株を段階的に売却することにしたという。このときの、2014年5月から7月にかけての売却手法が今回、証券取引等監視委に〝相場操縦〟と疑われたとみられる。

代理人や側近によると……

 村上氏の代理人である法律事務所ヒロナカの渥美陽子弁護士及び村上氏の側近によると、TSIの現物株を保有していた村上氏の投資会社「フォルティス」が、いきなりTSIの現物株を売却した場合、議決権の低下(つまり村上氏が売りに転じたこと)がTSI側に知られることを懸念したとみられる。議決権比率が5%未満だったため、大量保有報告ルールによる議決権の変動を公表する義務は生じないものの、「会社側が取引先証券会社に問い合わせると、証券会社は答えてしまう。つまり誰が何株を持っているのかその時点の持ち株比率を教えてもらえる」(渥美氏)ことを危惧。「ウチが減らしているとわかると三宅会長は甘えてしまう。だからできる限り現物株を持っていたかったのです」と、村上氏の側近は打ち明ける。

 このため、村上氏は14年5月ごろから傘下の投資会社である「シティインデックスホールディングス」や「リビルド」「レノ」(いずれも村上氏が実質的に支配)などを使ってTSI株の空売りを始めた。空売りは証券会社から株を借りて売却し、後に株を買い戻して証券会社に株を返すという一般的な投資手法である。しかし「空売りも手数料などコストがかかるので、株価の値動きをみながら『そろそろかな』というタイミングを見て現物株を売ってクロスしていたのです」と側近は解説する。

「株価を下げる方向に誘導する意図はない」

 こうして村上氏は14年6月27日と7月16日の2回、空売りの決済のため、現物株を持っているフォルティスが東証の立ち会い外取引であるToSTNet(トストネット)取引を通じて、TSI株を空売りしてきた「シティインデックスホールディングス」や「レノ」などに売却。空売りしてきた「シティインデックスホールディングス」や「レノ」などは、こうやって取得した現物株をもとに決済したという。

 14年5月末時点で約400万株だった村上氏のTSI保有株は同6月末には約280万株に、さらに同7月末には約140万株に、と減少していった。

 渥美弁護士は「できるだけ手持ちのTSI株を高く売って資金をつくりたい局面だったので、株価を下げる方向に誘導する意図はない。2014年6~7月の段階で大幅に株価を下げたら、まだ大量に保有していたTSIの現物株で損をしてしまう」と述べ、村上氏側に株価操縦の意図がないことを主張する。

 ただし、村上氏の側近によると、7月16日午後3時前に出した売り注文は、同時間帯の売買高の約7割を占めているとみられ、当の側近も「終値取引の関与率が高い」と認める。「ふだんのTSI株はもっと取引高が多いのに、その日に限って偶然、母数が小さくなってしまったので、ウチの割合が高くなってしまった。それで株価操縦といわれてしまった……」(側近)。渥美弁護士も「確かにたくさん注文を出したのですが、わざと株価を下げるような大量の売り浴びせはやっていない」という。

証券取引等監視委員会事務局長は東大の同級生

 実は、今回強制調査を行った証券取引等監視委員会の佐々木清隆事務局長は、2006年、同監視委の特別調査課長だった際に東京地検特捜部と合同で村上氏のインサイダー取引を摘発したという村上氏とは因縁の間柄だ。

・・・続きを読む
(残り:約2186文字/本文:約4493文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

大鹿靖明の新着記事

もっと見る