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[25]「働き手の生存権」の視点なき雇用政策

安倍首相「パート月25万円」発言の背景

竹信三恵子 和光大学現代人間学部現代社会学科教授

 春闘を控えて、賃上げ論議が再び活発化し、国会論戦でも、アベノミクスが賃上げに効果があったかどうかが与野党の論戦の焦点になっている。その中で波紋を呼んでいるのが、今月8日の衆院予算委員会での安倍晋三首相の「パート月25万円」発言だ。

透けて見えた労働の実態把握の弱さ

衆院予算委で答弁する安倍晋三首相拡大

 委員会では、民主党の山井和則議員が、景気回復で増えたとされる雇用のほとんどが非正規雇用で、実質賃金の下落率も民主党政権時代より大きいと質問。これに対し首相が、景気回復の過程ではまず非正規が増えるが、やがては正規へ移行するとし、また、現在の平均賃金が下がっている理由を次のように説明した。

 「景気が回復し、そして雇用が増加する過程において、パートで働く人が増えれば、一人当たりの平均賃金が低く出ることになるわけであります。私と妻、妻は働いていなかったけど、景気が上向いてきたから働こうかということで働き始めたら、私が50万円、妻が25万円であったとしたら、75万円に増えるわけでございますが、2人で働いているわけですから、2で割って平均は下がるわけです」。

 この発言をめぐり、「パートの現実を知らない」「そんなに稼げるならシングルマザーは苦労しない」といった批判がネット上で盛り上がった。

 たしかに、日本では、パートの多くが最低賃金すれすれの時給で、ボーナスや諸手当も出ないことが多い。そこで月25万円稼ごうとしたら、最低賃金が全国一高い東京でも月270時間以上は働かなければならない。週休2日なら1日13時間労働で、毎日5時間の残業となる計算だ。こんな働き方をしたら、家事も育児も地域生活もできないどころか、過労死のおそれさえある。

 批判に対し首相は、12日の衆院予算委員会で、妻が働いて25万円稼いだら、という意味であって、パートで25万円稼げるとは言っていないと反論した。

 だが、問題は、「パートで25万円稼げるかどうか」を超えて、「夫50万円、妻が25万円」という額にもある。年収200万円以下が7割を占める非正社員が働き手の4割を超えたいま、夫50万円、妻25万円、世帯収入75万円という例に、一瞬声をのむ家庭は少なくないだろう。雇用政策とは、まじめに働いていれば安心して生活できる枠組みづくりだが、その立脚点であるはずの労働の実態把握の弱さが、「月25万円」発言から透けて見えてしまったということだ。

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) 和光大学現代人間学部現代社会学科教授

和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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