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アベノミクス効果はすでに息切れ状態にある

数々のスローガン 実現する有効な手立てを示さない点で民主党政権末期に似ている

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

内閣主導の「官製相場」はゆがみの象徴

 東京株式市場の低迷がアベノミクスの不調を象徴している。年明けから不振が際立つ日経平均株価は、たんに中国経済の失速や世界景気の悪化懸念を反映しているだけではない。安倍政権の経済政策の成果が出尽くし、先行きに明るいものが見えてこないことに対する失望が映し出されているとみることができる。

アベノミクス効果を支持者に呼びかける安倍首相拡大アベノミクス効果を支持者に呼びかける安倍首相

 これまでは円高の是正と株価上昇がアベノミクス成功のメルクマールとされてきたが、もはや今後にその継続を期待することはできない。

 日経平均株価がこれまで順調に上昇してきた背景には、①大胆な金融緩和による円安効果で、輸出企業の手取り収益が好転した②脱デフレ政策の成功に期待した外国人投資家の日本株投資が増えた③年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式運用比率を大幅に高める方向でのポートフォリオ見直しを政府が推進したことによって、GPIFが株式を当面は買い続けるから株価はしばらくの間は上昇し続けるに違いないという安心感が、内外投資家を支えてきた。

 しかし、円安が一巡したり、円安の急進展に伴う輸入物価急騰で中小企業や家計が打撃をこうむったりしたため、この構図が崩れるに至ったのである。大胆な金融緩和によるアベノミクスの効果はすでに息切れ状態にある、ということだ。

 一方、GPIFによる株価買い支えは近いうちに終了するとの見通しが出てくるなかで、投資家が安心して買う土台が失われたのである。

 考えてみれば、かつては株価を支えるための政府介入は「PKO(株価維持政策)」とも呼ばれ、市場経済をゆがめる禁じ手としてマスメディアも厳しく批判してきたのに、それがやすやすとまかり通り、内閣主導の「官製相場」が堂々と続いてきたこと自体、日本の経済政策と市場のゆがみの象徴である。

 GPIFによる株式買い付けは永遠に続くものではないのだから、いずれ効果がなくなるということは目に見えている。株価がさらに低迷して国民の年金資産の減少が明らかになったとき、このような政策の誤りは誰の目にも見えるようになるだろう。

 いまは、そうした道筋が見えてきたところだから、まだ国民がアベノミクスに「ノー」をたたきつけるには至っていない。それでも、近いうちに官製相場の推進力が失われれば混乱が起きるということが投資家たちにわかってしまい、株価に反映せざるを得なくなったということである。

 相場格言に「まだはもう」というのがあるように、いずれ起きることを先取り的に実現してしまうのが株式市場なのである。

アベノミクスは構造的欠陥を内包している

 もうひとつ重要なのは、アベノミクスが実質賃金の低下をもたらし、消費増税の二段階実施とともに、消費を圧迫して経済成長を損なう構造的欠陥を内包しているということである。そのことも株価低迷と同時に明らかになってきている。

 アベノミクスはそれなりの成功を重ねてきた。すでに述べた超金融緩和による円高是正がそのひとつである。しかし、それによって輸入物価が上がり、消費者物価の上昇が起きる一方で、賃金の上昇はごくわずかであり、実質賃金の目減りが続いてきた。それが消費の抑圧要因であることは明らかだ。これまでのところは、雇用の量的拡大によってある程度は打ち消されてきたこの要因が、今後はむしろ前面に出てくると思われる。

 首相有力ブレーンである浜田宏一・米エール大名誉教授は以前、私のインタビューに答え、「はじめは賃金が上がらなくてもいい。むしろ雇用量の拡大が先行することが望ましい。その次に賃金上昇が起きれば消費が拡大し、本格的な経済成長ができる」との趣旨を語っていた。しかしながら、現実が浜田氏の期待通りに動いているわけではない。

 アベノミクスを分析する学者などが「物価上昇に見合う賃金増が実現すれば消費が増え続け、景気が良くなってゆく」と考えるのは間違いではない。ただそれが、一種の幻想であることに気付くべきではないだろうか。

 実際には、物価上昇に賃金が追い付いていないからこそ「賃金はもっと上がるべきだ」と言っているだけのことではないか。実際、安倍首相もそう繰り返し、「みずほの国の資本主義」などとも表現しているように、あたかもこれが資本主義の限界を突破する日本独特の経済政策であるかのようにPRしてきている。

 しかし、口先介入で賃金が上がるものだろうか。もちろん、アベノミクスに共鳴する経営者が、よきお手本を示すかのように賃上げを実施したり、日本経団連幹部たちがしぶしぶとではあれ賃上げに協力的な姿勢を示したりする効果はあり、決して無駄なことではない。しかし多少の効果はあるにせよ、全体を揺り動かすような大きな力とはなりえない以上、ここにもアベノミクスの構造的な限界があるといえよう。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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