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世界経済は長期的景気後退局面に入ったか?

成長する時代から、豊かさを享受し、ゼロ成長を楽しむ時代に入ってきたと考えるべきだ

榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト

サマーズの警告

ローレンス・サマーズ元財務長官=米マサチューセッツ州ケンブリッジ、増池宏子氏撮影ローレンス・サマーズ元財務長官=米マサチューセッツ州ケンブリッジ、増池宏子氏撮影

 ハーバード大学教授のローレンス・サマーズが長期的景気後退(secular stagnation)の可能性を示唆したのは2013年、今から3年程前のことだった。そして2015年、世界経済の成長率は前年の3.4%から3.1%に低下。特に新興市場国・途上国の成長率は4.6%から4.0%に急落した。

 主な原因は、石油・天然ガス・鉄鉱石等天然資源価格の暴落。2014年には1バーレル93.14USドル(WTI年平均価格)だった石油価格は2015年には48.75USドルへ、そして2016年2月には27ドルまで下ってきている。鉄鉱石価格も同様。2014年には1トン96.84USドル(年平均)だったが2015年には55.21USドルまで下落、2016年2月には40USドル前後になっている。

 資源価格の急落は資源輸出国を直撃し、ロシアの成長率は2015年にはマイナス3.7%、ブラジルのそれはマイナス3.8%まで下落したのだった。資源価格の下落は資源輸入国には、少なくとも短期的にはプラス。2015年にはアメリカの成長率は2.6%、ユーロ圏にそれは1.5%とそれぞれ2014年から0.1%、0.6%成長率が上昇している。

 日本の2014年は消費税増税で成長率は0.0%だったが2015年には0.6%まで回復している。資源価格の下落は日本の貿易赤字の縮小にも繫がり2015年の貿易赤字は2兆8322億円と2014年の1/5に縮小している。2015年12月単月では貿易黒字になってきたのだった。

世界同時不況を懸念する株式市場

 ただ株価は中国経済の減速、資源価格の大幅下落を反映して年初来下落し続けている。

 2015年6月24日は2万953円の高値をつけた日経平均は2016年に入って大きく下落。2016年1月21日には1万6017円まで下落し、2月中旬には1万5000円台前後で推移している。

 株価の下落は日本だけではなく、ニューヨーク・ダウも年初の1万7千ドル前後から2月中旬には1万6千ドルを切るまでになってきている。日米だけではなく、欧州も中国も価格を大きく下げてきている。1月4日、急落し世界同時株安の原因ともなった上海株も2700台を切る低水準で推移している。

 おそらく株式市場は世界同時不況を懸念して下げているのだろう。2016年に入っても資源価格の下落は続いており、ロシアやブラジルのマイナス成長は続いていくのだろう。2015年10月の「世界経済見通し」ではロシア・ブラジル経済の底打ちを予測していたIMFも2016年1月の見通しではブラジルは2016年もマイナス3.5%の景気後退を続けるとしている。

IMFも成長率を下方修正

 国際機関の常として国際通貨基金(IMF)や世界銀行等は将来についてはやや楽観的な見通しを出すのだが、2016年1月のIMFの見通しは、前回2015年10月に比べて世界経済の成長率を0.2%下方修正している。株価の世界的下落等が続き見通しを下げざるをえなくなったのだろう。

 2015年、資源価格の下落で新興市場及び途上国の成長が大きく下落するなかで(2014年4.6%から2015年は4.0%)、先進国はそこそこ好調でアメリカは2.5%、イギリスな2.2%、ユーロ圏は1.5%の成長率を達成したが、そろそろ先進国の経済にも翳りが出始めている。

 2014年から2015年にかけて50を上回ってきたアメリカの景況感指数も2015年11月には50を割り穏やかな下落が続いてきている。又、消費者物価指数も2015年9月から下落に転じてきている。2015年12月にはFRBは公定歩合の引き上げ(0.75→1.00)に踏み切ったが、2016年の利上げがどうなるかは予断を許さない状況になってきているようだ。

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